超絶汚い飲み方をしていた私が、少しだけマシになった理由
"「アルコールは恋に似ている」と彼は言った。「最初のキスは魔法のようだ。二度目で心を通わせる。そして三度目は決まりごとになる。あとはただ相手の服を脱がせるだけだ」"
レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』
恋愛に次いで多くの名言を生むのが、お酒についてだろう。昔の日本では「良いことを言うけどお酒が飲めない人って、なんだか猿に似てるよね」と発言した貴族がいたらしい。分からないでもない。正しいことは言っているんだけど、人間味がない奴はいる。SNSで自分の成功をひけらかしているような界隈に多い。
アルコールは人の本性むき出しにする。ある人は20歳くらい老けて見えるようになるし、ある人は赤ん坊のようにわがままになる。話題も、お酒が入ると変わってくる。ママ友とのランチでは「子供の習い事、どうしてる?」なんて真面目な話をするけど、同じメンバーで飲むと「あのパパ、絶対不倫しているよな」という話題にガラリと変わる。
私はお酒の失敗を多くしてきた。吐瀉物にまみれるのは当たり前。彼氏がいたにも関わらず、別の男性に土下座をして告白したことも数回。自分が木の妖精だと信じ込んで木に登り、下にいた人間へ放尿したこともある。他にも、noteの倫理に反してしまうから書けないようなこともたくさんある。あと少しだけ運が悪かったら、今頃ガンジス川で、生きているか死んでいるか分からない状態で浮かんでいただろう。こんな汚い飲み方をしているから、お酒のせいで何人もの友人を失ってきた。何人かはとても大切な友人だった。今でも思い出すと、胸が痛む。でも仕方ないのかもしれない。そもそも私はお酒を飲むと、とんでもなく口が悪くなるし、下ネタばっかり言うようになるのだ。
そんな汚い飲み方をしている中で、すごく大事な人と切れてしまったことがあった。彼には仕事でもプライベートでもお世話になっていたし、実を言うと淡い恋心も抱いていた。本当に落ち込んで、半年くらいお酒を断っていたくらいだ。
ある日、後輩の女の子と飲んでいる時(私はノンアルコール)に、彼のことを話した。「本当に好きだったんだけどな」と落ち込んでいると、彼女は言った。「でも、汚い飲み方をするのが彩さんですよ。離れられたってことは、それまでの関係だったんです。付き合うべき人間じゃなかったんですよ」
その後輩は続けた。「他にも彩さんのことを大切にしてくれる人は、たくさんいます。お酒を飲んで本性を見せて、それで離れていくような人は、別にお酒を飲んでいなくても離れていきますよ」
確かに私は八方美人が過ぎた。口が悪いくせに、誰かに愛されたいと思っていた。きっと私に足りていなかったのは「どうでも良い人には、どう思われてもいい」という考え方だったのだ。お酒を飲んで本性をむき出しにしても、自分のことを好きでいてくれる。そういう人とだけ付き合えばいい。
そうして、私はお酒を解禁した。
今では週に2回くらい飲んでいる。その間、三人の子供たちは、夫に家で見ていてもらっている。子供たちにしても、口うるさいママがいないし、パパが好きにお菓子を食べさせてYouTubeを見せてくれるので、良い息抜きになっているようだ。
でも、飲み方はひとつだけ変えた。今まで現実を忘れたいから、「私たちの健康に乾杯!残り少なそうだけどね!」とハイペースで飲んでいたのだけど、「こんな私にも付き合ってくれるのだから、相手との時間を大切にしよう」と思って、スローペースで飲むようになった。ただただ滅亡へまっしぐら!というような飲み方ではなくて、相手の話に耳を傾けながら、良いお酒をゆっくりと飲むようになった。すると、前みたいな汚い酔い方はあまりしなくなった。残念がる声もあるけど、もし飲み会に呼ばれなくなったら、それまでの関係なのだ。
変わらないことは、翌日にはしっかりと二日酔いになること。翌日には「もう二度とお酒を飲まない」と後悔するのだが、人を学習しない生き物だから仕方ない。二日酔い防止するための薬はたくさん試してきた。ウコンの力、ペパリーゼ、青パパイヤ、シリマリン……あげるとキリがない。どれもあまり効果を感じられなかった。いや、もし飲んでいなかったら、もっとひどいことになっていたのかもしれない。それでも飲み会の翌日、丸一日には使い物にならない。これが週に2回は起こる。やっぱり私の健康は残り少ないのかもしれない。それなら一緒に過ごすのは、お酒の失敗をしても付き合ってくれるような友人たちが良い。
生きづらさを抱える君へ送る、エッセイ集 かのん @izumiaya
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