第10話恋人になってから

恋人関係になったからと言って僕とカナリアの本質的な関係性に変化があったわけではない。

僕らは付き合う前と同じ様に仲の良い二人だった。

友達の延長線上に恋人関係と言うものが存在していた。

そんな感覚に近い。

と言うよりも僕もカナリアも第一印象から相手のことを好いていたのであろう。

今思い返せばそんな事を簡単に想像できる。

「私は第一印象で決めてたよっ♡」

無邪気な笑みを浮かべて僕に口を開く彼女に微笑みを返すと僕も答えた。

「僕も。って言うと後出しみたいだけど…話しかけられた瞬間には恋に落ちていたかもしれない。その時は必死で堪えたけどね」

「どうして?すぐにでも好意を示してほしかったな」

「そうかもしれないけど…普通に臆病になっていたんだ。嫌われたくないって」

「私の態度を見て嫌うと思った?」

「それは…分からないな。恋愛経験が豊富なわけじゃないから。女性の気持ちに敏感じゃないんだ」

「そうっ♡奥手な侍なんだねっ♡」

恋人関係になっても未だに僕を侍呼びするカナリアに微笑むとこの後のことを考える。

「今日の放課後はどうしようか?いつものように商店街に行く?」

僕の問いかけにカナリアは少しだけ顔を赤らめて俯いていた。

「なに?どうしたの?」

再び問いかけると彼女はか細い声で答えをくれる。

「四楼の家に行きたいな…」

その答えを耳にして僕の心臓はドキリと跳ねる。

「えっと…何をしに?」

そんな女性に答えを求めるような卑怯にも思える言葉を口にして僕は一度頭を振った。

「ごめん。今のは無し」

そう言った後に僕は笑顔を浮かべてカナリアに了承の返事をする。

「もちろん。良いよ。映画でもゲームでも。家でできる楽しい遊びをしよう」

「うん…ありがとう…♡」

控えめにもじもじとして応えるカナリアが異常に可愛らしく映って僕は今にも抱きしめたい気分にかられてしまう。

だがまだ午後の授業もあるので自分を律すると邪にも思える想いを捨て去る。

「午後の授業は体育だね」

「うん。女子はバレーボールだって。男子は?」

「男子は持久走。終わってる…」

「なんで?無になって走れて気分がいいでしょ?」

「そういう考えもあるんだね。僕は持久走が得意じゃないんだよ。短距離走は好きだけど」

「長い目で見て自分の体力と相談して計画を立てて走れば、そんなに辛いものではないと思うよ。走る前にどれぐらいのペース配分で走るかだけでも計画してみたら?途端に気持ちいいものになると思うな」

「そうかな…まぁ頑張ってみるよ」

「うん。侍なら出来るよっ♡」

僕は恋人の期待に応えようと思い午後の授業に向かうために着替えを済ませる。

クラスの女子は全員更衣室に向かい男子は教室で着替えを済ませる。

そして午後の体育の授業は始まり僕はペース配分を考えて走るのであった。


結果から言えば特に気持ちよさは感じなかったが、持久走のコツのようなものは理解することが出来た。

それを放課後の帰り道にカナリアに伝えると彼女は満足そうに微笑むのであった。



次回予告。

僕の部屋でカナリアとふたりきり…。

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