第7話尺寺院家と立場の違い
目覚めるとスマホにいくつかの通知が届いておりそれに目をやった。
本日はアラームよりも先に目を覚ましたため時間に余裕があるのだ。
一件はカナリアからだった。
「おはよう!侍はもう起きていますか?」
そのチャットに今起きた旨を打ち込んで返信をする。
もう一件は久しぶりに長野小豆からだった。
「まりが暴走しそうだから…気を付けてね?仲良くしている噂の転校生にも気を付けるように伝えておいて」
そのチャットに呆れるように嘆息すると了承の返事をする。
最後の一件は件の人物である
「四楼様は私の気持ちに気付いているはずなのに…どうしてそれを無視するような行動を取るんですか?私のことはどうでもいいと言うんですか?私を蔑ろにしていますか?」
そんな重いチャットを目にして僕は朝からネガティブな気分に陥ってしまう。
僕は事実だけを抽出して彼女に返事を送る。
「蔑ろにしているわけじゃないよ。でもね。まりのお父さんとお母さんに釘を差されていることは知っているよね?僕のような一般人が尺寺院家の娘と仲良くすることは出来ないんだよ。分かってくれると助かるよ」
尺寺院家はこの街の地主の一族であり端的に言うと大金持ちの一家だ。
僕のような一般人は本来関わることも出来ないような存在なのだ。
だが何の因果かまりが悪い人に絡まれているところを助けたのをきっかけに僕は懐かれてしまった。
懐かれるだけなら良かったのだが…。
尺寺院家の両親は僕の素性を調べたのか簡単に釘を差してきたのだ。
「娘を助けてくれたのは素直に感謝する。だがもう今後関わらないようにしてほしい。君もいつかわかることだが…立場の違う人間同士は本当の意味で対等な関係を築くことは出来ない。娘は君にご執心みたいだが…それも一時の気の迷いだろう。君の方から避けるように努めてくれ」
そんな言葉を投げかけられた少年の僕は理由もわからず、ただ怖そうな大人の言葉に怯えて頷くことしか出来なかったのだ。
僕も今後、嫌な思いをしたくないのでまりと関わることは無いのだろう。
そんな事を軽く思考すると制服に着替えて階下に降りていく。
リビングのテーブルの上には母親が作っていった朝食が用意されている。
それを有り難く頂くと洗面所に向かう。
丁寧に歯を磨いて顔を洗うと最後に髪を結んだ。
約束の時間よりも少しだけ早く家の外に出ると玄関の鍵を占める。
外の道路に出ると向こうの方からカナリアが歩いてきている所だった。
軽く手を持ち上げて手を振るとカナリアは気付いたらしく僕の元まで小走りで向かってくる。
「おはよう。今日も良い天気だね」
そんな他愛のない朝の挨拶から僕らの一日は始まろうとしていた。
「おはよう!今日も侍は侍だねっ♡」
カナリアの意味の分からない言葉を微笑ましく思うと僕らは駅に向けて歩き出した。
「そうだ。昨日話したまりのことなんだけど…」
そんな話の切り出し方にカナリアは何でも無いように頷く。
「一応気を付けてね?一緒にいるときは僕が守るけど…」
僕の言葉を最後まで聞くこともなくカナリアは首を左右に振った。
「大丈夫だよ。自分の身は自分で守れるから」
「いや、尺寺院家の怖い大人が出てくるかもしれないんだ」
「尺寺院家?」
「うん。ここらへんの地主で…」
「あぁ〜。まりの家のこと?」
「そう。だから一応気に留めておいてよ」
「まぁ…大丈夫だと思うけどね」
何故か自信満々な態度で僕に微笑みを向けてくるカナリアを心強く思うと僕らは揃って電車に乗り込んだ。
一駅分の五分程度の乗車を終えると徒歩で学校まで向かう。
校門の前に黒塗りの高級車が停まっていて僕は嫌な予感を覚えてしまう。
素知らぬ顔で僕らはそこを通り抜けようとすると…。
「四楼様!待っていましたわよ!」
黒塗りの高級車から降りてきた尺寺院まりを見て僕は嘆息する。
「待っていなくて良いよ。朝にチャットした通りだから。僕はまりとは関われないんだ」
「そんなことは知りませんわ。お父様もお母様も説得してみせます。だから私と一緒になってください」
朝の校門の前で公開告白をしてくるまりに僕は呆れて物が言えないでいた。
「ごめんだけど。無理なんだ。分かってくれよ」
「なんで…隣りにいる女性のせいですか?」
「違うよ。僕と尺寺院家の問題であって…カナリアは関係ないよ」
「でも…仲良くしていらっしゃるんでしょ?」
「そうだね。ありがたいことに仲良くしているよ」
「前までは私と小豆ちゃんだけだったのに…どうして?四楼様は変わられてしまったのですか?」
「どうかな。でも僕は今の僕を好きだから。カナリアと過ごしている今の僕が好きなんだ」
僕も僕でカナリアに対して好意を伝えているようなものだった。
カナリアは顔を赤らめてもじもじとした態度で僕の背中に隠れていた。
「そうですか…」
まりは諦めてくれたのか、それだけ口にすると僕らの先を歩いて校舎の中に消えていく。
周りには人だかりができておりざわざわと噂話のような憶測を口にしているようだった。
僕はカナリアの手を引くとそのまま教室に向かう。
隣同士の席に腰掛けると僕はカナリアに謝罪をした。
「ごめんね。面倒事に巻き込んで…嫌だったら…」
その先の言葉を言おうとした所でカナリアは首を左右に振った。
「嫌じゃない。侍と過ごせるなら…私も幸せだから…」
「そっか…」
僕とカナリアは甘くぎこちない雰囲気に包まれており少しだけ不思議な空気のままHRは始まろうとしていた。
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