第6話目的地はたこ焼き屋。カナリアの意外な一面
ふっと疑問に思ったかもしれないので書き記す。
僕とカナリアは電車で通学しているが正直な話をすると歩いてでも通える距離だった。
一駅分しか電車には乗っていないし、乗車時間だって五分ほどだった。
それなので商店街の人達が僕にフランクな態度で接するのも納得して頂けると思う。
僕も幼い頃から母親に連れられてこの商店街を歩いて回ったものだ。
それこそ今みたいに買い食いをしたりして過ごしていたのだ。
閑話休題。
放課後が訪れて僕とカナリアは歩いて商店街を目指す。
本日の目的地はたこ焼き屋である。
商店街にある一つのお店とは思えないほどにおしゃれな外観や内装のたこ焼き屋に入っていくと店主のオジサンに話しかける。
「こんにちは。普通のたこ焼き二つください」
「おっ!四楼か!今日はまりでも小豆でもない女性を連れてきたんだな」
「人聞き悪い言い方しないでくださいよ。まりも長野さんも僕が連れてきたわけじゃないんですから」
「そうだったけ?いつも三人でいたような気がするから。記憶がこんがらがっているな」
「三人で居ることは多かったですが…まりとも長野さんとも二人きりでいたことはないですよ」
「そうだったか?じゃあ初めてのデートってことか。こりゃめでたい」
おじさんは会話をしながら手を動かしておりカナリアはたこ焼きが出来ていく過程が物珍しいのか黙ってその行動を眺めていた。
くるくると回転させて焼いていくたこ焼きを明るい表情を浮かべて眺めているカナリアをスマホの写真に収めた。
「え?なんで撮ったの?」
カナリアは少しだけ驚いたような表情を浮かべて僕に問いかけてくるので正直に口を開く。
「いや、今の表情があまりにも可愛らしかったから…嫌だったら消すよ?」
「うんん。侍に可愛いって思ってもらえて嬉しいなっ♡」
僕らの軽いイチャつきを見たおじさんは苦笑とともに口を開く。
「羨ましいねぇ〜。おじさんもそんな青春を送りたかったなぁ〜」
薄く微笑むおじさんに僕はどう答えたら良いのか分からずに戸惑ってしまう。
「でもおじさんだって幸せそうに見えますよ?」
意外なことに僕ではなくカナリアが口を開くとおじさんは不思議そうに首を傾げる。
「いや、だってその指輪…高いものでしょ?」
おじさんはそれを聞いて驚いたような表情を浮かべると左薬指を隠すような仕草を取る。
「若いのによく知っているね」
「はい。ジュエリーには興味があるので」
「そうか。これは一本取られたね。じゃあおまけで一つ追加しちゃうよ」
「ありがとうございます」
「あぁ。美味しいって思ったらまたいつでも来てくれ。四楼と一緒にでも。一人でも。友達と一緒にでも。いつでも歓迎するよ」
「はい。ありがとうございます」
そうして僕らは割り勘で会計を済ませると店内の椅子に腰掛けて食事を始める。
カナリアはふーふーと熱いたこ焼きを冷ましていた。
「楊枝で軽く刺すと良いよ。そこから空気が入って冷めていくんだ」
「そうなの?中も熱々な感じ?」
「どちらかと言うと中のほうが熱いよ」
「ホント!?じゃあしっかりと冷ますね。やけどしたくないから」
そうして僕らは十分にたこ焼きを冷ますと口に運んでいく。
カナリアは表情豊かで美味しいものを食べた時の反応は、まだ出会って二日だが分かるようになっていた。
今の表情を見る限り、美味しいのだろう。
それを理解した僕は質問をすることもなく最後まで食事を楽しむ。
「ごちそうさまでした」
挨拶をして外に出ようとしているとカナリアはおじさんに話しかけていた。
「初めてのたこ焼きがここで良かったです。本当に美味しくて最高な思い出になりました。必ずまた来ます」
カナリアは深く頭を下げると店の外に出てくる。
「良い思い出になってよかったよ。また来ようね」
「うん。明日は何処に連れて行ってくれる?」
「う〜ん。まだまだ美味しいものはあるからね。考えておくよ」
「ありがとう♡流石侍だねっ♡」
そんな幸せに包まれた会話を続けながら僕らは電車に乗って帰路に就くのであった。
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