第4話翌日の朝も…

前日のカナリアとの連絡のやり取りで朝は僕の家の前で集合することとなった。

アラームの音で目を覚ました僕は身支度を整える。

両親は既に仕事に向かっており家には僕一人が残されていた。

母親が作っていった朝食を食べながら何気なしにテレビに目を向ける。

ニュースを詳しく見るわけでもなく天気予報で本日の空模様をチェックしていた。

「本日は概ね晴れるでしょう」

お天気お姉さんの言葉を耳にした僕は一安心するようにほっと胸をなでおろした。

ピコンっとスマホに通知が届いてそれに目をやった。

「侍!起きていますか?」

通知の相手はカナリアで僕は直ぐに返事をする。

「起きているよ。もうすぐ支度も済む」

後は洗面所で行う支度だけで全てが整う所だった。

朝食で使用した食器類を洗うと洗面所に向かう。

歯を入念に磨き顔を洗うと最後に髪を結ぶ。

鏡で再度チェックをすると一つ頷いてカバンを手にした。

玄関の鍵を開けて外に出ると…。

「おはよう!侍!」

玄関の外の道路では既にカナリアの姿があり僕は軽く驚かされる。

「早いね。着いていたならチャイム押してくれればよかったのに」

そんな言葉を残して家の鍵を閉めていく。

「いや…ご両親とかご家族がいたら…少し恥ずかしいかなって…」

もじもじとした態度で言葉を口にするカナリアに苦笑すると僕はすぐに彼女の隣に向かって歩き出した。

「大丈夫だよ。朝に両親が居ることはないから。僕よりも早く仕事に行っているんだ」

「そんなに早くに出勤なんだね。大変そう…」

「まぁ。仕事好きな人達だから」

「侍も?」

「どうかな。僕はバイトの経験もないし自分が仕事好きかもわからない」

「どうしてバイトはしていないの?」

「ん?両親に止められているんだよね。成人するまでは禁止だって」

「それはどうして?」

「んん〜。未成年が成人した大人の輪に入るのを嫌っているのかも」

「どういうこと?」

「なんだろう。親からしたら悪い遊びを覚えたりしたら嫌でしょ?未然に防いでいるんだよ」

「そっかぁ〜。でも友達から悪い遊びを教えられることもあるんじゃない?」

「そうだね。だから僕は信頼の置ける相手としか仲良くしないよ。悪い友達はいないに等しいかな」

「そっか。良い侍なんだねっ♡」

「………臆病なだけかもよ?」

「そんなことないよ。善悪の判断って難しいことでしょ。それを自分で律するだけでも偉いことだと思うな」

「そう言ってくれるだけで救われた気分だよ」

僕とカナリアは朝から会話が尽きることもなく駅につくまでの数分間、歩きながらずっと話して過ごす。

流石に電車に乗ってからは僕らもマナーを守るように大きな声で話すことはなかった。

ただカナリアが外の景色を物珍しそうに眺めており、

「あれは何?」

などという質問に静かに一つずつ答えていくと高校までの最寄り駅にはあっという間に到着する。

「今日の放課後は何処に連れて行ってくれる?」

駅のホームを抜けるとカナリアは僕に伺うように小首をかしげて問いかけてくる。

「う〜ん。たこ焼きは食べた?」

「まだ!ずっと食べたいって思っていたんだけど…何処のお店が良いのか分からなくて…」

「何処でも美味しいよ。それこそコンビニのでも冷凍食品でも。でも今日は商店街で人気の所に連れて行くよ」

「ホント!?流石だね!侍っ♡」

カナリアは嬉しそうに僕の腕をぎゅっと抱きしめると甘えたような視線を送ってきた。

異常に恥ずかしかったが、それ以上に光栄で幸福な瞬間だったためそれを快く受け止めていた。

僕とカナリアは揃ってクラスに入っていき隣の席に腰掛ける。

カナリアは転校生であるのだがあまりの美貌故に他のクラスメートは遠くから眺めるだけで話しかけづらそうにしていた。

それもそのはずだ。

カナリアは何故か僕にしか懐かずに他のクラスメートから話しかけられても愛想が良くない様に思えた。

「カナリア。もう少し他のクラスメートとも仲良くしたらどうだ?」

僕のそんな問いかけに彼女は少しだけ困ったような表情で首を左右に振る。

「どうして?」

「だって…」

カナリアはそんな意味深な三文字を口にすると思いの丈をコソコソと教えてくれる。

「男子はいやらしい視線を送ってくるし…女子は嫉妬と羨望が混ざったような複雑な態度で話してくるから…正直に言うと疲れちゃうの」

ウンウンと話聞いているとふとした疑問を覚える。

「僕は?大丈夫なのか?」

単純に疑問に思ったことを口にするとカナリアは大きく頷く。

「侍は大丈夫!何でかは私にもわからないんだけど…絶対に大丈夫なの!」

真剣な表情で僕に訴えかけてくるカナリアの言葉を受け止めると正直に嬉しかった。

「まぁ…それなら良かったよ。徐々に交友関係が広がると良いな」

「うんん。私には侍が居るから…それだけで十分なのっ♡」

「十分かな…そんなに自信もないし責任を取れるかはわからないよ」

「大丈夫。私は分かっているから。侍とだったらいつまでも仲良しでいられるって」

「そうなのか?そう言ってくれると助かるよ」

「うん。私も助かっているから。お互い様だねっ♡」

そう言って微笑むカナリアを僕だけの心のアルバムの一ページに名前をつけて保存するように記憶に焼き付けていた。

あまりにも美しいそのほほ笑みをこれから先いつまでも忘れずに、いつでも取り出せるようにそっと抱きしめておくのであった。

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