第3話人生の転機

放課後デート?はまだ続く。

校門を出た僕らはそのまま駅までの道程を歩いていた。

「とっておきの場所って…何処に連れて行ってくれるの?」

カナリアは期待するような眼差しで僕を見つめている。

「ん?行ってみてのお楽しみだよ。期待に応えられるかは分からないけれど」

「ハンバーガーやサンドイッチじゃ満足できないよ?」

「ふっ。分かっているよ。こっちならではの所に連れて行くから」

「そうなの?それは楽しみだな」

カナリアの期待に応えるように少しだけ自らハードルを上げると目的地に向けて歩き出した。

「着いたよ」

駅までの道中の商店街にある肉屋の前でカナリアに声を掛けると彼女は不思議そうな表情を浮かべている。

「お肉屋さん?ここがとっておきの場所?」

カナリアは戸惑っているようで少しだけ困っているようにも思えた。

「折角案内してもらったのに悪いんだけど…」

否定的な言葉を口にしようとするカナリアを手で制すると首を左右に振った。

「まぁまぁ。折角来たんだから入ってみようよ。それに買い食いをしたいんでしょ?それならここが一番だよ」

「う〜ん。どういう意味か分からないけれど…侍が言うなら入ってみる」

消極的な言葉を口にするカナリアに苦笑すると僕らは揃って肉屋に入っていく。

「いらっしゃい!お!?四楼じゃないか!なんだ!?今日は女の子とデートか!?えらい美人さんを連れてきたなぁ〜」

肉屋の店主は僕らを見渡すと歓迎の言葉をかけてくれる。

「こんにちは。おじさん。いつものを二つずつ包んで欲しいな」

「わかった!それにしてもここはデートには最適じゃないと思うけどな」

「そんなことないよ。カナリアは海外で過ごしていたから。ここのイチオシを食べたらきっと喜ぶんじゃないかな?」

「そんな嬉しいこと言われたらおじさんだってサービスしないとってなるだろ。口車に乗せられてやるよ。今回だけはいつもの値段で良いぞ」

「え?そんな…悪いでしょ?本来だったら倍の値段なのに…」

「良いんだよ。異国のお嬢様にうちの商品を食べてもらえるなんて光栄だからな」

「そう。ありがとうね。おじさん」

「なんてこと無いさ」

そうして僕は会計を済ませて紙袋に包まれた商品を手にする。

「気に入ったらまた来てくれよ」

おじさんはカナリアに声をかけてにこやかな笑みを浮かべる。

「はい。ありがとうございます」

カナリアは借りてきた猫のように礼儀正しく挨拶をすると肉屋を後にする。

僕らは商店街を抜けた先の公園のベンチに腰掛けると紙袋を開ける。

「コロッケとメンチカツとカニクリームコロッケっていうんだけど。食べたことある?」

「あるようなないような見た目をしていることは確かだね」

「どれからでも食べてみたら良いよ。本当に美味しいから」

カナリアに勧めると先んじて僕が食べて見せる。

サクッと言う衣を噛んだ時のいい音が聞こえたのかカナリアは食欲を刺激されているようだった。

口の中に広がる旨味を堪能している僕を見てカナリアはたまらずに一口頬張った。

ひとくち食べただけでカナリアはこの美味しさを理解したのか無言で次々とコロッケなどを食べ続けた。

あっという間に食べ尽くしてしまったカナリアは物足りないのか困ったような表情を浮かべている。

「もうなくなっちゃった…」

「どう?美味しかったでしょ?」

「うん!最高だった!もっと値段を高くしてもいいと思うほど美味しかったよ!この美味しさで一個百円とか…信じられない。凄すぎる。しかもさっきのおじさんはお店側からサービスしてくれるなんて…本当に信じられないわ…」

カナリアは感動しているようで早口で捲し立てるように言葉を口にするので僕は嬉しくなって破顔した。

「また行こうよ。おじさんも喜ぶよ」

「明日!明日また行きたい!」

「そんなに気に入ったの?他にも美味しい店は沢山あるよ?」

「え!?まだあるの!?近所に!?」

「うん。商店街を歩けば沢山の良いお店があるよ」

「凄い!明日からもいっぱい食べ歩きたい!侍!案内して!」

「わかったよ。じゃあ明日の放課後も一緒に過ごそう」

「やったぁ〜♡それでこそ私だけの侍ねっ♡」

最後の言葉に軽く苦笑すると僕らは買い食いを終えて駅へと向けて歩き出した。

カナリアと同じ方向の電車に乗ると僕らは同じ駅で降車した。

「最寄り駅一緒なんだね」

「そうみたいだね。そうだ!じゃあ朝も一緒に登校しませんか?」

カナリアは良いアイディア浮かんだように閃いたような表情を浮かべて僕に問いかける。

「OK。じゃあ連絡先を交換しておこう。待ち合わせの場所と時間を決めるためにも知っておいたほうが良いでしょ」

「はい!もちろん!喜んでっ♡」

僕とカナリアは連絡先を交換すると二人揃って帰路に就く。

自宅が見えてきてもカナリアは僕の隣を歩いている。

「僕はもうすぐ自宅だけど…」

「私も。あの大きなマンションだよ」

「え…そうなの?めっちゃ近所だ」

「そうだね!これこそ運命っ♡」

僕は自宅の前に着いたのでカナリアに声を掛ける。

「ここが自宅なんだ。でもマンションまで送るよ。こんなに近所だけど最後まで見送りたいから」

「良いんですか!?流石侍っ♡」

そうして僕は最後までカナリアを見送ると別れを告げる。

「じゃあまた明日ね。連絡はいつでもしてくれていいから。じゃあ」

「はい!侍のお陰で今日は最高の一日でした!明日からもよろしくです!」

「僕も楽しかったよ」

返事をすると僕らは手を振ってその場で別れる。

帰宅した僕は本日が人生の転機だと思ってしまう。

カナリアとの特別な日々はこれからも続こうとしている。

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