対決、獄激辛コヤング!
「配信待機中 しばらく全裸でおまちください」
月白五尾:全裸って本来の姿でってこと?
おもちもちにび:しげきしゅうたいさくで、べっしつでたべるらしいよ
りんりんどー:そんなものを僕に食わそうとしたあたり邪悪すぎるだろ
きゅうび:本当にやるのか……
ユッキー☆:幽世妖怪じゃなきゃできない芸当なんだよなあ
燈篭真王:なおワイは喫食済 刺激臭ってか、汁が飛ばないためだろうな
動画の配信待機画面が切り替わった。
そこは蕾花の私室——彼が巣穴と呼んでいる場所だ。ガサツな性格の割に、というかそれを自覚しているからか掃除はこまめにしているらしく、片付いていた。まあ、配信の時だけ綺麗にしているだけかもしれないが。
「さあて、先週些細なことでこの獄激辛コヤング焼きそばを大瀧さんと食べて、その、完食対決するっていうことになったんですけど……」
「こういうの燈真向きの企画だろ、一平凡雷獣にやらされてもな」
トリニキ:大瀧さんが平凡雷獣……? おかしいな
MIKU♡:平凡な雷獣じゃあMIKUちゃんと戦えないはずなんだよなあ
おほほなみ:※幽世妖怪のみんながみんなあんなものを食べようとするわけではありません
ハチミツキ:案外食えちまったりしてな
カメラに向けて、蕾花と蓮が手にしていたソースを映した。獄激辛ソースと書いてある、赤黒い袋だ。まるで、鬼の血が入っているような不気味さである。
その封を切って、二匹の妖怪が箱の中の麺に注ぎ始めた。
「匂いは普通じゃないこれ」
「ちょっと刺激臭はするけどな。色自体はほんのりオレンジっぽいソース色って感じだし」
オカルト博士:こういうのって動画の罰ゲーム企画で食べるところを見るんだよなあ
見習いアトラ:V系とかも音声だけとはいえきつそうだよね。どうなんだろうか
だいてんぐ:後日のお手洗い事情の方が気になる一天狗です
隙間女:魍魎の方が美味しいでしょ
しろいきゅうび:それはない
きゅうび:ない
ユッキー☆:身近に怖い妖怪多すぎて怖いです……
「見た目は普通だよなあ……じゃ、いただきまーす」
「いただきます」
キメラフレイム:! 来るぞ!
サニー:見てるこっちが唾液やばい……
蕾花と蓮が、やけに可愛らしいフクロウの絵が刻まれた箸で焼きそばを啜った。
蕾花はいつも通りの食べ方なのか、恐ろしいことに慎重に行くこともせず、普通に大口を開けて頬張った。
蓮は冷静に、軽めの一口。
口に入れて、もぐもぐと咀嚼する。
慣用表現の火を吹くを体現する——誰もがそう思った。
「からっ」
「うん、からい」
おもちもちにび:あれ?
よるは:まさかあんたたち……
きゅうび:そういや蕾花ニキ辛いの平気じゃなかったっけ……?
ネッコマター:まっっっっっった、なにこの空気!
二匹の妖怪は、別段むせたり、吐き出すこともない。
自然と二口目を啜る。
それから、とんでもないことを蓮が言い放った。
「リアクションできるほど辛くはないぞこれ」
トリニキ:言いよったーーーーーーーー!
ユッキー☆:草 めっちゃ普通に食べてるじゃないか
隠神刑部:辛党に任せる企画ではなかったのでは?
サニー:りんりんどーさんあたりが適任だったかもしれませんねえ
おもちもちにび:わっちもひじょうにそうおもいます
月白五尾:お姉ちゃんもそう思います
りんりんどー:僕は決してそうは思いません(恐怖)
「ア!!!!!!!! 口の中になにもないとやばい!!!!! 辛い、じわっとくる!」
しばらく焼きそばをかき混ぜていた蕾花がそんなことを言った。かやくと麺を混ぜ合わせていたのだろうが、その間に思わぬダメージを受けたらしい。
見れば二匹とも、やはり辛さを感じているようだ。汗が滲み、蕾花に至っては涙と鼻水が出ている。慌てて背を向けて鼻をかんで、蓮は終始できる雷獣らしく、汗以外は出さない。
淡々と食べている——のだが、唇が腫れてきていた。
しろいきゅうび:しっかりダメージ受けとるではないか
きゅうび:体は正直ですね(にっこり)
MIKU♡:まあワイなら余裕で食えるんですがね
だいてんぐ:是非やってみてくださいよ
ユッキー☆:天狗こわいなあとづまりすとこ
おもちもちにび:においはどうなの?
見習いアトラ:あ、それ気になる やっぱ時間経つと凄いのかな
コメント欄で出てきた疑問に、蓮が素直に答えた。
「匂い自体は至って普通なんだよな。俺もてっきり嗅いだ瞬間涙滲むのを想像してたんだけどな」
「さては燈真はわかってて言わなかったなあいつ」
蕾花は辛さを紛らすためか、とにかく口に焼きそばを突っ込んでいた。
どうやら空になると辛いというのは本当らしく、ひっきりなしに口に焼きそばを書き込んでいた。
キメラフレイム:ひょっとして僕らでも食べれるのでは?
ペガサス:案外イケるかもねえ……
サニー:だめです
ユッキー☆:だめです
MIKU♡:だめです
きゅうび:一般的な妖怪が食べたらどうなるんだろう……
ハチミツキ:参考までに燈真から一口横取りしてた椿姫は顔真っ赤にして水がぶ飲みしてたぜ
よるは:普通そうなるのよ ひょっとしてあの二匹馬鹿舌なんじゃないの
トリニキ:舌鋒鋭い主神で草
と、コメント欄が盛り上がっているうちに、しれっと蕾花が完食した。
手を合わせて「ごちそうさま」と言って、箸を置いた。
「この対決ってさ、先に完食したら勝ちなの?」
口の中を飲み込んで、一口遅れで完食した蓮が答える。
「先かあとかじゃないからな、これ。完食したら、って条件だろこれ」
きゅうび:完食対決、としか言ってなかったですしね
ユッキー☆:どっちも完食したから引き分けなんだよなあ
おもちもちにび:どうがとしては、まけだよ……
オカルト博士:にびちゃんの言う通りで草
「歯茎痛くない? 大瀧さん」
「いてぇな。マジか、これ歯茎でこんなに痛かったら明日のトイレどうなんだよ」
だいてんぐ:延長戦があるんですか?
隙間女:今日だいてんぐニキサディスティックすぎません?
MIKU♡:ぶっちゃけ普段からそういう感じの妖なんだよなあ
りんりんどー:マジで普通に食べ切ってて草 感想は?
「激辛の美味しい焼きそばって感じだったかな」
「俺は二度目はない、って感じだが、そんなリアクション取れるほどの辛さには思えなかったな」
灯籠真王:世に出回ってる動画を演技みたいに言うな(怒り)
月白五尾:いや、一般妖狐的にはほんとに無理な辛さだから
しろいきゅうび:やっぱ竜胆がジャッジすべきだろ
りんりんどー:は?
きゅうび:竜胆君、強く生きて……
——かくして、獄激辛コヤング対決は、あまり大きな波乱もなく終わってしまうのだった。
しかし、同時に彼らはその後も長引くスリップダメージに苦しまされることになるとは、まだ誰も知らなかったのである。
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