雑談配信回 インターネット老人会

 配信準備中 ゆっくりしていってね

 まったり雑談 特にテーマはなし


 配信準備中 ゆっくりしていってね

 まったり雑談——「おはようございます」


 画面に寝起きの蕾花が映った。寝巻きの作務衣姿で、本当に起きてすぐ撮っているのだろう、寝癖も治していない。顔は洗ったようでそこまで酷い顔ではないが、声はダマのあるたこ焼き生地のような感じで濁りがある。


「朝活配信っていうのをしてみます。最近社務所日誌を出してなかったしね」


 ユッキー☆:おはよう、朝四時に何してるんだい?

 だいてんぐ:君こそ何をしているんだい?

 おほほなみ:ちな私は旦那とアニメ消化 すまんの、月曜非番なんだ

 ネッコマター:そんな酷い話があってたまるか


「この時間は流石にみんなは揃わないよねえ。まあ仕方ない。アーカイブに残すからいくらでも見返せるしね」


 蕾花は湯気を立てるコーヒーを飲んだ。彼は妖狐でありながら人間でもあるため、カフェインたっぷりのコーヒーを飲める。


「最近ねえ、また読書をし始めたんですよ。ちょーっと、あんまりにもしなさすぎて語彙力がワンパターン化してきて自分の作品表現にマンネリを感じてたんですよね。それがスランプの正体だろ、って思って」


 ユッキー☆:ちょっとわかる

 よるは:昔はお前のような読書家だったが……目に矢を受けてしまってな

 おほほなみ:衛兵がいるんだが?

 オタクン:当ててやろうか、いなりもちでも盗まれたかな?

 ハチミツキ:ちなどんな本読んでるの


「古本屋で全巻まとめ買いしたSF。宇宙帝国が舞台のコテッコテのスペオペ。あと、味変に前読んでたのを読み返す感じ」


 よるは:スペオペ読むの意外すぎる

 おほほなみ:本棚エロ同人しかなさそうなのに

 だいてんぐ:草

 オタクン:僕は古のオタクなので評論系の同人誌ばっかもってる


「いや、普段読まないからか知らないけど新鮮で面白いんだよね。難しい設定の説明とかも、どうすれば飽きずに読ませるか工夫が凝らされてるし、日常会話のシーンも違和感のないやりとりなんだよ。地の文の表現力もねえ……いいねえ。ちなみに第一巻の初版本は一九九六年四月」


 ユッキー☆:前世紀の本じゃないっすか

 がしゃどくろ:どうも〜 蕾花ニキゼロ年代SF読んでたのは知ってたけどね

 だいてんぐ:ゼロ年代SFが面白いのは若い世代で度々言われるねえ

 オタクン:この辺僕熱く語れるよ

 おほほなみ:もちつけもちつけ

 ハチミツキ:拙者は本読まずフラッシュ見て過ごした世代ですぞ


「インターネット老人会になってない? 大丈夫?」


 ハチミツキ:もすかうもすかう!

 おほほなみ:夢見るアンディさん!

 ユッキー☆:おっさんですかシャアですか!

 オタクン:おっほっほっほっほ!

 よるは:ヘイ!


「主神がインターネット老人会にいるってどう? いやじゃない? 社長がだって、フラッシュ出身……」


 だいてんぐ:過去一熱い配信なのほんと笑う

 がしゃどくろ:懐かしすぎて痩せる これ以上痩せたら指導で太らされる

 おほほなみ:どういうこと? kwsk

 がしゃどくろ:人間社会に扮して働いてんだけど、痩せすぎで色々やばいんだよ

 ハチミツキ:その逆で悩む奴は知ってるけどな なあみんな

 ネッコマター:くぁwせdrftgyふじこlp


「マジレスやめろ。俺も四トン太ってたんだ」


 ユッキー☆:トンって単位がまずおかしい

 だいてんぐ:トラックでも丸呑みにしました?

 オタクン:何食べたか詳細キボンヌ


「年末年始油断して食べる量増やしたらあっという間よ。和食中心の普段の飯なら別にそんなことないんだけど、間食をね。しかも単糖類・脂質たっぷりの洋菓子をバクバク」


 だいてんぐ:急に血糖上がってあっという間に太るコンボじゃないですか

 がしゃどくろ:知見

 ネッコマター:そういやどくろさん痩せすぎて困ってんだったわ

 オタクン:僕もどっちかっていうと細いんだけど、太りたいっていうか筋肉つけたい

 おほほなみ:オタクくんはそのままでいいにょ

 ユッキー☆:常闇之神社の皆さんの食事量、俺らからするとみんな大食いなんだが……

 すねこすり:今北産業


「雑談配信が、何のはずみか、インターネット老人会になった」


 すねこすり:俺らの時代がぶり返す可能性が微レ存……?

 だいてんぐ:(それは)ないです

 ネッコマター:おっそうだな


「急に臭くなったぞどうなってんだ。なんで読書の話題がこうなった……?」


 ユッキー☆:もしかして:ハチミツキ

 ハチミツキ:同胞を売るな

 サンダー:こんな時間に彼女がモゾモゾしてるから何かと思えば……。世界を跨いだ同族の喧嘩ですか

 りんりんどー:ぽきた

 おもちもちにび:はんとしかん、ろむってろ


「天使のようなアイドルが一番の過激派かよ。こわー」


 きゅうび:おはようございます

 灯籠真王:あーげつよう

 さくら:分社からカキコ

 ハチミツキ:おー、久しぶり


「おはようございます、同接増えてますね〜。新規さんにご説明しますと、この配信はほぼ身内でがやがやするものですが、もちろん輪に入って行っても構いません。みんな優しいから大丈夫、怖くないよ」


 きゅうび:邪神が怖くないよっていうのすごい絵面だ

 よるは:このコメントすこ

 灯籠真王:弟分からの痛烈なツッコミ

 りんりんどー:兄さんの寝起きの顔がまあまあ狂犬ヅラだから、十分怖い

 ネッコマター:本家ツッコミも負けてない


「いや、そこで競う必要なくない?」


 くちさけ:初見です

 がしゃどくろ:ウェルカム

 ネッコマター:にゃんぷっぷー

 きゅうび:初見さんいらっしゃい

 だいてんぐ:ようこそ

 ユッキー☆:くちさけさん、結構新しい感じっすねえ


「現代っ子だよね。ひょっとして、フリじゃない?」


 くちさけ:やっぱり皆さんもそうなんですね 口裂け女です

 きゅうび:おお

 りんりんどー:とうとう今時女子のリスナーが!

 ゆきおんな:浮気ですか?

 おもちもちにび:あーあ

 だいてんぐ:修羅場だ


「なんか隣の部屋から冷気が漏れてくるなあ。ままええわ」


 時間を見る蕾花は、そこでずいぶん喋っていることに気づいた。


「っとと、もうこんな時間。ひとまず防音結界を解いて式神の水とか変えますので、配信切りまーす。じゃあ月曜日です、頑張っていきましょう」


 きゅうび:乙かれさまです

 くちさけ:私も今日オーディションなので頑張ります

 りんりんどー:ひょっとして、アヤドラのキャストさん? まさか……

 おもちもちにび:にいさんいきてた わろち

 灯籠真王:菘ちょいちょいサイコなの草

 だいてんぐ:無邪気な方が時として怖いから……

 ユッキー☆:身にしみております


 そこで、配信自体は終わった。コメント欄はしばらく雑談スレッドのようになっていたが、タイムラグの影響で使えていた投稿も、少しすると途切れるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る