4-8 秘された答え

 期限はまだあるからと、アルベルト様を追い出してしまったこの私。


 少々意地が悪い事を自覚しておりますが、それでもささやかな“魔女の悪戯”を優先させてしまいました。


 もちろん、導き出した答えを伏せ、“値を吊り上げる”のが最大の理由ではありますがね。


 哀れ、アルベルト様! これからあちこち女性からの回答を聞くでしょうが、絶対に正答には辿り着けませんよ。


 なにしろ、あなた様が最初に訪れたであろう魔女の館、その住人にしか導き出せない答えでありますから。



「ねえ、ヴェル姉様、子爵様は答えを見つけて来れると思いますか?」



 横におりますジュリエッタが尋ねてまいりました。


 彼女もまた、私と同じ答えを導き出しています。少しばかりの手掛かりヒントを授けましたら、すぐに気付いてしまいましたが、そこは“見慣れている”とでも申しましょうか。


 “答え”が目の前にいたのですからね。



「取っ掛かりは与えましたからね。思考を反転させる、答えはこの館にいる、と言う具合にのう」



「確かに! あれで気付けなければ、ちょっと吹っ掛けて売りましょう!」



「無論、そのつもり」



 さてさて、命の恩人となるこの私。アルベルト様に何をおねだりしようか、少しばかり気分はウキウキ・・・・でございます。


 程々に金子を搾り取って差し上げましょうか。


 殿方を焦らすのは、女の特権でございますよ、黒い手の貴公子様。



「ヴェルお姉様、そんなに簡単な答えなのですか? あの謎かけリドル、私には一向に分かりませんが?」



 同じく部屋の中にいますラケスが尋ねてきました。


 彼女もまた“魔女の館”に顔を出せる存在ではありますが、少し難しいかもしれませんね。


 ジュリエッタほど、“答え”を見ているわけではありませんので。



「言ったであろう? “あらゆる女性が欲しがるもの”とは、“あらゆる女性が持っていないもの”と言う事になる。まあ、当たり前すぎて、そこに気付けないのは止むなき事。と言うか、“魔女の館ここ”が例外に過ぎるのですよ」



「そう言うものなのですか?」



「そういうものなのです。まあ、ラケスにも教えておいてやろう」



 そう言って、私はラケスの耳に顔を近付け、ヒソヒソとその導き出された答えを教えてあげました。


 するとどうでしょうか。


 ラケスは始め、目を丸くして驚き、それから少し間をおいて笑い始めました。


 まあ、知ってしまえば何のことはない。笑い事で済む話。


 逆に気付かなければ、当たり前の社会の常識であるため、意識すらしない事でありましょう。



「これはしてやられました! 確かにこれは、ヴェルお姉様にしか導き出せない答えかもしれません!」



「そうじゃろう、そうじゃろう。答えを聞いてしまえば何の事はないが、聞かねば、気付かねば、絶対に分からぬものよ」



「まったくもって、その通りですね。この館だけが例外的に過ぎます」



 ラケスも納得したようで、やはり“あらゆる女性が欲しがるもの”は、この答えで間違いないでしょうね。


 さてさて、アルベルト様からは日頃の“御礼”も兼ねて、たっぷりといただいてやると致しましょうか。



「ジュリエッタ、期限の日の夜は明けておくことにしましょうね。アルベルト様の“奢り”で、無事な“生還祝い”と致しましょう」



「フフフ……、さすがヴェル姉様、そういう搾り方をしますか」



「自身の生還祝いであるから、拒否権なんてありませんよ。で、店中お祭り騒ぎにして、大いに困らせてやりましょう」



「振る舞い酒と料理、用意しておきませんとね!」



「盛大にな! なにしろ、アルベルト様が無事に御帰還される祝いなのですから。プーセ子爵家のお財布を、全力全開、大開放するのですよ!」



 ああ、楽しみで仕方がありませんわ。


 あのすまし顔(普段は仮面を被っていますが)が、どういった反応を示すのか、想像するのが難しい。


 だからこその楽しみと言うもの。


 さあ、アルベルト様、早く答えを聞きに再訪してください。


 焦らして、たっぷり上乗せしてから、教えて差し上げますからね♪

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