4-7 反転する思考
「あらゆる女性が欲するものとは何か?」
これを持ち込んできたアルベルト様は言うに及ばず、私、ジュリエッタ、ラケスもまた悩み、唸り声を上げる始末。
そもそも、“欲望”などと言うものは、人それぞれの形や色をしているものです。
業突く張りな私やジュリエッタと、家族思いなラケスとでは、欲するものが根本的に違います。
それにも拘らず、「あらゆる女性が欲するもの」など、答えを導き出すのがこれまた難しい。
(いや、これは普通に“欲望を満たそう”と考えるのではダメ。もっと深く考えなさい。そもそも
私はさらに深く考え込みました。
(あらゆる女性が欲するもの……。いえ、これはむしろ逆。あらゆる女性が欲しがるという事は、言葉を変えれば、“あらゆる女性が持っていないもの”という事でもある。持っていないからこそ、欲するという感情が生み出される)
ここへ思考が至る。
では、“あらゆる女性が持ちえないもの”とは何か、とさらに思考を進めました。
その時、ピンッ! と頭に閃きが駆け巡り、まさかと思いつつ、それより突き詰めて考えますと、一つの答えが導き出されました。
(……ああ、そういう事ですか! なるほど、なるほど、なるほど! これは逆に“当たり前”過ぎて、思いもよらぬ事でしたわ!)
女性、と言うより、“社会の常識”がこびり付いていれば、決して分からぬ答え。
当たり前、常識過ぎて、思いもよらぬ事でございました。
しかし、
この空間だけは、その常識に縛られていない者がいるのですから。
「……分かりましたよ、
「本当か!?」
当然、アルベルト様が食い付いてまいりました。
もちろん、考え込んでいたジュリエッタやラケスも同様に。
「ヴェル姉様、どうやって正答に!?」
「なぁに、簡単な話なのですよ、ジュリエッタ。思考を反転させればよい。あらゆる女性が欲するものとは、さかしまに言えば、あらゆる女性が持っていないものとなる。そして、ここにだけその“世間の常識”が通用しない者がいるのです」
そして、ジュリエッタもまた私からの
程なくして何かに気付き、ポンッと手を叩き、満面の笑み。
「ああ、なるほど! これは盲点でした! 目の前にヴェル姉様がいなければ、まず気付けない話ですわね!」
「よしよし。では、答え合わせじゃ」
そう言って、私とジュリエッタは部屋の隅へと移動し、互いに導き出した答えを耳打ちして、アルベルト様やラケスに聞こえぬよう、ひそひそと耳打ち。
二人が見守る中での答え合わせ。それはお互いに“同じ答え”に至っており、どうやら間違いなしという確証を得ました。
そうなると、“業突く張りな女”である、私とジュリエッタの本領発揮でございます。
ニヤニヤといささか下品な笑みを浮かべながら、再び席に着きました。
「そ、それで、どうなのだ?」
「そうがっつかないでください、アルベルト様。私とジュリエッタで答え合わせを致しましたが、“同じ結論”に達したので、間違いないかと思います」
「おお! さすがは魔女殿だ! して、その答えとは!?」
さすがに自身の“命”と“
でも、私が“魔女”である事をお忘れなく。
「時にアルベルト様、回答の期限はございますか?」
「ああ。『一週間後に同じ場所、同じ時刻に』という事だ」
「でしたらば、刻限までにまだ数日余裕がございますね~」
「お、おい! 余計な事を考えるなよ!?」
「えぇ~、どうしましょうか~?」
ここで視線をアルベルト様から逸らし、ジュリエッタに向けますと、まだニヤついておりますね。
当然、顔には「焦らせ! 値を吊り上げろ!」と記されております。
さすがは私の妹。考える事は同じですね。
「答えは教えません!」
「おいこら! 私に死ねと!?」
「死ぬ必要はございませんよ。なにしろ、栄えある騎士の妹を、麗しい美女を娶れば、何の心配もいりませんので」
「あれのどこが美女だ!? 枯れた老婆ではないか!」
「あら、美女だと娶る気でしたか。アルベルト様の浮気者~」
ここぞとばかりに捲くし立てる私。
ああ、仮面を被っておりますので、アルベルト様のご尊顔を拝見できないのが残念で仕方がありません。
おそらくは、
「まあ、猶予はありますので、答えは御自身でお探しください。期限の日の朝にでも答えを教えて差し上げますので、じっくりとお考えあそばせ♪」
「酷くないか!?」
「労無くして答えを知ってしまえば、出題者に失礼ですから」
ここで完全に会話を切りました。
アルベルト様が食い下がって尋ねてまいりましたが、私もジュリエッタも決して答えは教えず、ニヤニヤ笑うだけ。
止む無く撤収してしまいましたが、まあ、ご安心くださいませ。
約束通り、刻限には間に合うように答えは教えますので♪
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