4-6 ラケスの願望
「あらゆる女性が欲しがるものとは何か?」
アルベルト様が受けた
答えを欲して思考を巡らせるも、湧き出すのは無数の欲望ばかり。
一つとして形の定まるものではありません。
(やはり“あらゆる女性”という点が最重要な部分ね。これを越えない限り、絶対に正答には辿り着けない)
欲望の形は人それぞれ。
私やジュリエッタのように、欲望の欲張りセットを求める輩もおりましょう。
逆にささやかな願いで良しとする者もおりましょう。
やはり定まるものではございません。
ならば、より多くの意見を集約するのは当然の帰結。アルベルト様がここに来たのも、それが理由ですからね。
「では、ラケスや、お前の欲しいものとは何か?」
さて、この可愛い従妹はどう答えるのか。
願望こそ、人の正直な姿。その人の本質。
さあ、これにどう答えるのか楽しみです。
そんな私の思惑を知ってか知らずか、少し躊躇った後、ラケスは口を開きました。
「両親を生き返らせてほしい」
こちらの予想を超えた回答。
金銀財宝には目もくれず、かと言って膨大な知識と言うわけでもない。
あと、あの朴念仁な
その辿り着いた先の答えが“亡き両親の蘇生”と来ましたか。
「ラケスよ、その真意は?」
「私は幼い頃に両親を亡くして、ずっと兄さんの世話になって育ちました。だから、両親の記憶がどんどん薄れていく。でも、それだからこそ、ようやく一人前になったと呼べるくらいに成長した私が、親孝行をしてあげたいかな、と」
なんという人情味あふれた回答でありましょうか。
欲望全開の私やジュリエッタとは、根本的な精神構造が違うようです。
血は繋がっていないとはいえ、これは魔女の館の住人か、魔女の従妹かと思うほどに純真無垢。
そして、無意識に摩る膨らんだ腹。その中にはディカブリオとの子が入っておりますし、親孝行の言葉の中にはおそらく「孫の顔を見せてあげたい」という意味も込められている事でありましょう。
思わずギュッと抱き締めたくなるような、本当に“良い娘”ですね。
(それにしても、親と会いたい、か。私も本来、その答えが出せないといけないでしょうし、どうしようもない業突く張りな魔女ですわね)
私は親の顔を知らない。
父親、母親、揃って知らないのです。
父親に至っては、名前すら知りません。
どこの誰とも知れず、母は身籠り、私を産んでからどこかに消えてしまったそうです。
だから、私が物心ついた時には親はなく、私を育ててくれたのは、祖母と叔母の二人でした。
ただ、今は母親の居場所を知っている。
それは遥か彼方の“雲の上の世界”だという事を。
(……おっと、余計な思考は止め止め。益体もない。それよりも、ラケスの回答の方にこそ気を配りなさい)
記憶にない母親の事よりも、目の前にいる従妹にこそ気を配るべき。
そして、
(しかし、ラケスの回答はかなり困った事になりましたね。私やジュリエッタのような欲の皮の突っ張った者ばかりではないという事を、如実に表していますからね。これは“あらゆる女性”という縛りに引っかかる)
やはり欲望の形は人それぞれ。
ラケスの求めたもののように、金銀財宝の山では叶わぬ願いを持つ者もいる事なのは明白です。
まあ、好感という点ではラケスの回答が一番とは思いますが、だからと言って“あらゆる女性”という条件を満たしているとは言えません。
現に私のように生みの親に興味の無い者もいますし、それどころか喧嘩別れして、険悪な親子と言うのもおりましょう。
つまり、ラケスの回答であっても“あらゆる女性”という回答は、正答とはとても思えません。
(これは本当に難問だわ。ぼんやりとし過ぎていて、形が定まらない。かと言って、正答の無い
三人揃えば賢者の智慧とも申しますが、それでも良い回答が出てこない。
「あらゆる女性が欲しがるもの」とは何か?
角度を変えねば分からないかと考え、私は更なる深い思考を巡らせていきました。
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