第4章 あらゆる女性が欲しがるもの

4-1 人は欲望を満たすもの

 どうも皆様、お久しぶりでございます。


 御初会の方は初めまして。ようこそお越しくださいました。


 高級娼館『楽園の扉フロエンティーナ』にて、享楽の請負人たる高級娼婦コルティジャーナを務めております、ヌイヴェル=イノテア=デ=ファルスでございます。


 今宵もまた、私のつたなき寝物語ではございますが、楽しいお話をしたいと思います。



「汝、欲するものを申せ。一つだけその願いを叶えてやろう」



 天より神が荘厳なる後光と共に降臨し、このようにに述べてきましたとしたらば、あなたはどうお答えになるでありましょうか?


 難しい、非常に難しい問題です。


 どんなものでも与えてくれるというのでありますから、大いに悩みます。


 しかし、それは皆さまも同じことではないでしょうか?


 十人十色という言葉がございますように、人の願いという形は、人の数だけ存在するものでありましょう。


 その欲深さに差異はあれど、人は欲望を満たそうとする生き物でございますゆえ。


 私も欲しいものは山のごとくございます。


 金銀財宝の山、おとぎ話に出てくるような大きなお城にかしずく従者や侍女達、いかなる危機をも助けてくれる騎士、そして、素敵な伴侶、挙げていけば切りがございません。


 一つと言わず、二つも三つも欲しいものがございますから、一つに絞れと言われましても困りますね。


 その願いを考え付くのに、幾日悩み通すか知れたものではございません。


 なにしろ、私は業突く張りな魔女でございますから。


 一つだけと言われましても悩んでしまいます。


 まあ、願い事の数を増やせなどというズルはいたしませんが。


 そんな悩ましい女性の願い事について、今宵はお話しすることといたしましょう。


 それは一人の貴公子が『あらゆる女性が欲するもの』を求めて奔走する、そんなお話でございます。

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