2-22 魔女はまじないを否定する
「結局のところな、この国の医療技術自体が遅れているという事なのじゃよ。あんなヤブ医者が普通に営業しているのがその証拠」
魔女の私以上に“まじない”じみた治療をして、それに誰も疑問を抱かないのですから困ったものです。
おかげで、私が“魔術”を用いて治療しましたらば、皆が驚く有様ですからね。
愉快ったらありゃしませんわ。
「では、ヴェル姉様は今この国で行われている治療は、間違っているということですか?」
「大半は間違っている。特に、先程の呪術のような軟膏もそうですが、
「え? あれ、そうなんですか? ただの料理本とかじゃなくって?」
「当たり前じゃ。一昔前は、魔女と知れたら火炙りが常。薬草に詳しいというだけで、悪魔と契約をしたなどと勘違いされ、捕まっていたのですからね。つまり、薬草学の手引書はある種の魔導書であり、悪魔の知識だなどと言われていたの。ゆえに、魔女は世間の影に潜み、その正体を秘してきたのよ」
「ああ、つまり、魔女である事をバレないようにするため、料理本に擬態した薬草学の手引書って事ですか!」
「読む者が読めば、ちゃんと分かるようにはできていますが、まあ気付きませんね。ほとんど暗号みたいなものですからで。ジュリエッタも騙されていたくらいですから、なかなかにレベルは高いですわよ」
「はへ~。初めて知りました! ヴェル姉様も、カトリーナお婆様からそうやって受け継がれていたのですね!」
これは一本取られたと、ジュリエッタは苦笑いしながら自らの頭を叩く。
まあ、魔女ではないジュリエッタには、気付くのも難しい事でしたから、これは止むを得ませんね。
魔女の秘術は綿々と受け継がれた“経験則”を元にした、立派な学問であり、知識なのですから。
親から子へ、孫へと引き継がれてきたそれぞれの記憶の欠片の集合体。
それを理解できぬ迷信だらけの世間から、秘して隔絶されてきた証なのです。
世間が魔術という名の“迷信”を信じ、魔術を用いるはずの魔女が“科学”を用いる。
それがこの世界の有様だったのですから。
(お婆様の時代までは、本当にひっそりと受け継がれてきましたからね~。せいぜい、身内か信用のおける身近な人間くらいにしか、施術や投薬ができませんでしたが)
無論、私もお婆様より数々の知識を伝授され、それを元に“魔術”を行使しています。
魔女の魔術の多くは“科学”という
今回用いましたる【
さも、呪いと穢れの刃物を清めの水で洗い、それが傷口にも影響を及ぼしたように見せかけただけ。
魔女が魔術を用いて怪我の治療にあたり、医者以上の治療を施したと“錯覚”させただけでございます。
「しかし、そうなると……、ヴェル姉様、あのヤブ医者は実のところ、真実を語っていたという事になりませんか?」
「ほほう、それに気付くか。さすがはジュリエッタ」
「いかにもお二人の言う通りです」
馬車の中の我々は互いの顔を見やり、同時に軽く息を吸う。
そして、同時に“真実”を吐き出しました。
「「「まじないで傷の治療ができるわけなかろう!」」」
まさに、あのヤブ医者が口にした台詞。
私が魔術(っぽく見せた)による治療を、あのヤブ医者は批判していました。
傷口に薬を塗らず、斬り付けた刃物に“清めの水”をかけていたのですから。
しかし、事実は逆。
ヤブ医者が呪術的な治療を施し、私の方が科学的な治療を施していたのです。
医者がまじないを施し、魔女が科学的医術を施す。
まさにあべこべではありませんか!
まじないで傷の治療なんてできない訳ですし、
それに気付ける私達は、腹を抱えて大笑いというわけです。
気付けないからこその“ヤブ医者”なのですから。
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