第2章 名医になる予定の男
2-1 お抱え医師アゾット
どうも皆様、初めましての方はようこそいらっしゃいました。
再来店された方も、もちろん歓迎でございます。
高級娼館『
当館にて享楽の請負人を務めております、
口か、頭か、どちらかが悪い者は“
ただ少しばかり肌の触れた相手から、情報をいただく魔術を使えるだけの女なのでございますから。
さて皆様、本日は安息日でございまして、大変申し訳ないのでございますが、予約は受け付けておりません。
またの機会にご予約いただけると幸いでございます。
そんな手隙の日でございまして、先程まで教会へと朝の礼拝に出かけておりました。
良く知る司祭様からのお有り難い説法と、これ見よがしな熱視線に若干うんざりしてございましたが、まあ、無事に安息日の
いやはや、あの司祭様は私の上客でございまして、出会う度に天使が降臨されたかのように振る舞われますのは、本当に胸の鼓動がバクバクものでございます。
普段は学識深く、信仰にも篤い御仁なのでございますが、私に関わると途端に羽目を外す悪い癖がございます。
店以外ではなるべく出会わないように注意を払っているのですが、安息日の礼拝には出かけねばなりませんし、週一の一番億劫な日でもあります。
なのに安息日とは、これ如何に? と神様に問い質したくなります。
魔女の質問に、神様が素直にお答えいただければの話ではございますが。
ああ、もちろん、教会への寄進は欠かしておりませんよ。
教会の壁の一部が少々破損しておりまして、神の住処がこれではいけないと、司祭様に修繕費を差し上げましたので。
「おお、なんと篤き信仰心か! あなた様の功徳を考えれば、とうに天国への階梯は約束されておりますのに、なお積まれますか!」
などとお喜びの言葉を受けましてございます。
娼婦にして魔女と言う阿漕な商売を生業としておりますが、神様、どうかそのあたりは御寛恕あって、末席でも構いせんので、天国に居場所をお造り頂けると幸いでございます。
とまあ、そんなこんなもございましたが、安息日のささやかな一場面ですわね。
そんな私は今、ディカブリオに屋敷を訪れておりますが、今の私は上半身は裸でございまして、白磁のごとき肌を晒しております。
そして、目の前の男性に乳房を揉まれております。
全身が白一色の特異な容姿ゆえ、気味悪がられることもございますが、これを至高とする方もそれなりにございます。
白大理石を彫り上げたかのようだとか、遥かに眺むる白峰を思わせるだとか、様々な言葉をかけていただける私の乳房。それが今、揉まれているのです。
それだけではございません。その手は私の白肌を滑るがごとく撫でてこられ、その視線は隈なく触れたる所を眺めてきます。
ですが、残念なことに、お話を聞いてくださる皆々様には艶事を話されるのかと思われたかもしれませぬが、これは仕事。
そう、私のではなく、目の前の男性の仕事なのです。
定期的にこうして私の体を触診し、健康の良し悪しを見てくれるのです。
何を隠そう、目の前の男は医者でございます。
男は我がイノテア家のお抱え医師で、名をアゾットと申します。
風采の上がらぬ地味な見た目の男ではございますが、その見た目に騙されてはいけません。
まだ三十にもならない若い医者ではありますが、腕のいい医者であると評判でございます。
今少し診察にお時間もかかるでありましょうし、今日は私とアゾットとの出会い、そして、医者になった経緯をお話しましょう。
この者は元々、
それがどうしてアゾットが医者となり、我が家のお抱え医師になったのか?
その経緯を検査を待つ間、是非お聞きになってくださいませ。
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