気持ち悪い

@mizuki241350

第1話 26

気持ち悪い人達だなと思った。

人生初めてやるバイト。数店舗展開している小チェーン店で働いた。そのバイト先の皆さんは和気あいあいとしていて、皆仲が良さそうに見えた。

バイト先のシフトは一月毎に発表で、決定したシフトがバイトのLINEグループに貼られた。

良かった。来月はお金が必要だったため、毎週月火水曜に入れていたことにほっとした。

しかし1週間後の日曜、次の火曜は人件費の関係でバイトを休みでお願いします。というLINEが届いた。


ラッキーと思った。

何もしなくてもお金が手に入ったと思った。

現在の労働基準法では、既に決定したシフトを会社都合で削る場合、その本来支払われるはずだった賃金の6割以上を会社側は従業員に支払わなければならないと定められている。

僕はその事を知っていた。知ってしまっていた。だから喜んだ。喜んでしまった。

次の月の給料日、文字通り働いた分だけお金が振り込まれていた。


急に気持ち悪いと思ってしまった。

あの、仲が良いと錯覚するあそこの空気も、無知であることが罪に問われないこの環境も、それを整備できないこの国も、そしてこのような考えに至ってしまった人間を異端と考えてしまう国民性も、

知ってしまっている自分も。

全てが気持ち悪いと思った。気持ちいいとも思った。気づけた。わかった。周りは気づいていないのに、僕だけが気づいた。

皆は無知は罪、恥、悪などと宣う。

なのに自分の知らない知を見させられた時、皆その知を罪や恥と言う。

無知は罪、間違っていないだろう。僕もそう思う。しかしこの国では、知も罪らしい。

ではどうすれば良いのか。

この国はこうするらしい。

その知を無かったことにしよう。そんなものは存在していないことにしよう。

私"達"の世界になかったものを知ってる人は私達の足並みに合わせさせよう。適応させよう。慣れさせよう。淘汰しよう。なかったことにしよう。存在していないことにしよう。

気持ち悪い。

実際、僕が次行くはずだったバイトで未払い請求をするとしよう。確かにお金は払われるかもしれない。守るべき法を守り、僕の懐は質量を得れるかもしれない。この動作に何も間違っていることなどひとつも無いのだ。

なのに僕は微細な重さを手に入れた代わりに、無知の彼らからは何故か暖かくない目を向けられる。

つまりこの行動は正しいのに間違っているということらしい。

ここまで僕は分かっている。

ならここから僕がするべき立ち回りもも分かっている。

答えが出て満足した僕はそのままベッドに身を投げた。


次の日の朝、僕は公認会計士の資格を取るための本を買ったことになった。そして僕は残り2年という時間でこの資格を取る気でいるということにした。午後にこのことを店長に話した。


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