第15話 不釣り合いな宿の部屋で
宿に入るとキクが低ランク冒険者用の部屋を取って案内してくれ、今はそこで座って休んでいるが……
「低ランクって言う割に広い部屋だな……、冒険者になりたての者はこんなに良い部屋で泊まれるのか」
「兄貴もやっぱり疑問に思う?私もさ、複数人用で休む部屋ってあったから足が延ばせない位に狭いのかなって思ったんだけど……」
(もしかしてキクちゃんが気を遣ってくれたのかも?優しい子でお姉ちゃん嬉しいな)
冒険者ギルドで見たEランク冒険者達の姿を見ると、到底このような広い部屋に泊まれる程の稼ぎがあるとは思えない。
正直そこまで収入が良いのなら、ライやハスのように服装などの見た目に気を使ったり……それ以外にも自身の使う武器の手入れ等に時間を使うだろう。
その中で余った金額を使い宿を取ると言うのなら分かるが……、低ランクとなるとやはり難しいだろう、という事はやはり気を遣われた可能性がある。
「……何故気を遣われたのか気になるな」
(リーゼちゃん、多分だけど……ミコトちゃんが色んな人達の怪我を治して来たのが理由じゃないかなって思うの、そのお礼に良いお部屋を貸してくれたのかなぁって)
「セツ姉、それは無いと思うよ?だって私お金ちゃんと貰ってたしさ」
「……誰かが来たみたいだ、少しだけ私と二人で話している振りをしろ」
部屋の外に意識を向けると床が軋む音がする。
とは言え不快という訳ではなく、敢えて音が鳴る様に細工をされているような手の込んだ感じだ。
そう思っていると部屋の扉がゆっくりと開き、見覚えのある女性が入って来た。
「セツナは喋れない筈なのに、まるで何を言ってるのか分かるかのようにやり取りをするのね、やっぱり家族だから言葉が話せなくても分かったりするのね……羨ましいわ」
「聞き耳を立てていたのか?」
「いえ、耳が特別良いだけよ、だから室内の声が聞こえてしまうの」
「……それでは安心して話を出来やしないな」
「宿泊者の秘密は絶対に外には漏らさないわ、守秘義務は守るから安心してちょうだい……それよりも一つ言いかしら?」
眼を鋭くして私達の方を見ると足を指差して……
「外の国から来た人には分からないかもしれないけど、この国では宿泊施設の室内や個人の家に入る際は靴を脱ぐ決まりがあるの、床が汚れるから直ぐに脱いでちょうだい」
「そのような決まりがあるのなら、部屋に案内された時に言って欲しかったかも……」
「そ、それは……言い忘れてたのよ、ミコトちゃんごめんね?……正直何回かこの街に訪れてるミコトちゃんなら知ってると思ってたの」
「ほら、私は治療のお礼に貰ったお金で食料を買いに来てただけだから、家に入ったりとかする事無かったし……」
「……だよね、私ってばいつもこうなの一度思い込んじゃったらダメでね」
そう言って小さく笑うけど、まずはその両手で持っているトレイを降ろした方が良い気がするのは気のせいかと思うがこれは触れた方がいいのだろうか。
折角ミコトに友達が出来たのに楽しそうに話してる所を止めるのは良くない気がするが、取り合えず今は靴を脱いでキクに指定された木で出来た棚に置く。
(もうキクちゃんったら、手に重そうなの持ってるのに立ち話なんかしたら疲れちゃうよ?)
「あれ?セツナどうしたの?」
(それ私が持つからちょうだい?)
「え?これが欲しいの?ってちょっと待って今テーブルに置くから大丈夫」
靴を脱いだセツナが立ち上がって床に着いた汚れを、能力を使用して綺麗に消しながらキクに近付くとトレイをキクから受け取ろうとして近づく。
それに気付いてテーブルの上に置くと、飲み物が入っているだろう陶器を4個並べて、何故かその場に座る。
「……何故座る?」
「何故ってあなた達とお話をしたいなと思って、飲み物を持って来たんだけど?……もしかして嫌だった?」
「……嫌ではないが」
返事を待つ前にその場に座って既に寛ぐのはどうかと思うが、まぁ気にしすぎない方がいいだろう。
「ありがとう、なら寛がせて貰うわね」
「へぇ……、ふぅーん」
「ん?ミコトちゃんどうしたの?」
「えっと、二人って相性良さそうだなぁって思って」
「え?何言ってるの!?ミコトちゃん」
本当に何を言ってるんだ。
それにキクも何故そんなに顔を赤くしているのか、これではまるで私に対してそういう気があるみたいに見えるから止めて欲しい。
「……ミコト、貴様は何を言ってるんだ?」
「そうよミコトちゃん、誰がこんな初対面で人の事じろじろと嫌らしい目で見て来るような人と相性が良いものですか!」
「それについてはすまないと反省しているが、過去の事を気にし過ぎるのは良くないと思うのだが?」
「過去の事ってあなたねぇっ!ほんの少しの事を直ぐに過去に何て出来るわけないでしょ?」
「ならなんでそんな私達に宿を貴様は紹介してくれたんだ?しかもこんな明らかに低ランク用ではない部屋を……」
……私の問いかけに顔を真っ赤にしたまま俯くと、暫くして『だって、冒険者に良くしてくれたミコトちゃんだけじゃなくて、自分の国が無くなっちゃって辛い思いをしてる人達がいたら優しくしてあげたいじゃない』とぼそぼそと小さな声で口にするのだった。
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