第14話 滅びた国と距離感

 キリサキに連れられて宿へと向かう道中、ふと何を思ったのか私の顔を見て彼女が口を開く。


「そう言えばあなた達って何処から来たの?」

「何処って……兄貴どう答えたらいいのかな」

「ん?もしかして言えない位に訳ありだったりする?……まぁ冒険者になる位だから色々と事情はそれなりにあるのだろうけど」

「すまないな、伝えられたら伝えたいのだが……」

「そう言えば最近周辺の国で、モンスターの襲撃で滅びた国があったわね、ミコトがこの街に現れたタイミング的に、徒歩でこの栄花に来たとしたら……なるほど、それなら確かに言いたくないよね」


 ……何やら勘違いしているようだが、同情したような視線を向けて来る辺りキリサキ・キクという人物は心優しい女性なのだろう。

それにしても都合の良いタイミングで滅びた国があった物だ。


「えっと……」

「いや、事情は言わなくていいからねミコトちゃん、あの国は周辺に生息している人並みのモンスター達から棲み処を奪っては、生き残りを捕らえて奴隷として自分達の労働力にしていた危険な国だしね、滅びたとは言えそんな所に居ました何て言わない方がいいでしょ」

「ミコト……ちゃん?」

「あら……嫌だったかしら?見た所歳が同じ位かなぁって思ったからついちゃん付けしちゃった」

「嫌じゃないけど何だか友達みたいな距離感だなって思って……、兄貴どうしよう」


 何故そこで私に聞くのかと思うが、こうやってミコトが助けを求めている時は自分では判断が出来なくて迷っている時だからな……、頼られたのなら助けた方がいいだろう。


(リーゼちゃん、ここは助けようとしちゃダメだよ?)

(……何故だ?)

(私達はこれから新しくこの時代で生きて行くんだよ?それなのに友達の作り方を家族が手助けしちゃダメ)

(だがミコトが助けを求めているのなら答えるのが兄というものだろう?)

(リーゼちゃん?過保護になっちゃダメ、時には見守らないと……私もお姉ちゃんだから心配だけどきっと大丈夫だから、ね?)


 二人に声を掛けようとしたらセツナに止められてしまう。

なるほど、過保護が過ぎるのも良くないか……。


「そうだな……、ミコトお前が不快に感じないのなら良いのではないか?」

「……不快じゃないけど、でもどう反応すればいいのか分からなくて」

「それなら少しずつ慣れてくれればいいわ……後私の事はキリサキじゃなくて、キクって呼んでちょうだい、イフリーゼやセツナもね?」

「分かった、それならキクと呼ばせて貰おう」

「えぇ、セツナも……ってごめんなさい、あなたは喋れないのだったわね」


 申し訳なさそうに頭を下げるキクを見たセツナが何を思ったのか……、両手を広げるとキクを優しく抱きしめと背中を一定のリズムで優しくトントンと叩く。


「え?あ、あのセツナ?」

(大丈夫、私は気にしてないよ?)

「気にしてないから大丈夫って言いたいらしい」

「そ、それなら良かったけど、ちょっと……は、恥ずかしいから止めてちょうだい」

(どうして?キクちゃんはとても良い子だから、お姉ちゃんもっとよしよししてあげたいんだけど……)


 どうやらセツナはキクの事が気に入ったようだ。

満面の笑みを浮かべているのを見ると、実の妹のようにかわいく感じているのだろうな……。


「……あきらめろ、セツナはこうなったら満足行くまで止まらないからな」

「そ、そんな、あなた達のお姉さんでしょ!?何とかしてよイフリーゼ、ミコトちゃんっ!」

「ごめんねキク……、こうなったらセツ姉は止まらないからあきらめて?」

「ふ、二人そろって会ったばかりの私を見捨てないでぇっ!?」


 その後、満足行くまでセツナに甘やかされたキクは顔を真っ赤に染めながら歩みを再開すると……


(ん、お姉ちゃん満足……)

「や、やっと解放された……、と、取り合えずもう直ぐそこが宿だから直ぐに行くよっ!」

「すまないな、姉が迷惑をかけた」

「いや、別にこれくらい……、むしろ良い匂いがして安心しちゃったって言うか、お姉ちゃんがもしいたらこんな感じなのかなって思ったから、貴重な経験出来たって言うか、と、とにかく気にしてないからいいわよ」

「……そうか」


 姉がいたらって割と良い事ばかりではないが、キクが満足しているのならそれでいいのだろう。

そう思いながら着いて行くと、目の前に大きな建物が見えて来る。

入り口には宿の名前が書かれているだろう布のようなものがかけられており、冒険者だと思われる人等がそれをくぐって中へと入って行く。


「ここが、この街で唯一冒険者を受け入れてくれる宿【キリサキ亭】よ、ようこそ新人冒険者さん……、そして改めて自己紹介をさせてもらうわね、私はCランク冒険者兼この宿の看板娘キリサキ・キクよ」

「……なるほど」

「……あれ?驚かないのね」

「キクさんが案内してくれる時に、実家が宿を経営してるって言ってたから……」


……ミコトがそういうと恥ずかしそうに『あ、あれは無しっ!それだと私がまるでお客さんを連れてくる為にあえて案内したみたいじゃない』と慌て始める。

いや、どう見てのあの流れはそうとしか思えないだろうと言いたくなったが、下手に突っ込んで話が長くなるよりも黙って宿に入り部屋を取った方がいいだろうと思うのだった、

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