とある兵士のお話

@50BMG

とある兵士のお話

どこまでも続く塹壕の中に私は居た。

数年に続く、長い戦争だ。

今は砲撃や爆弾のせいで凸凹とした地形だが、

元々小麦畑が広がるきれいな場所だった。

決して顔を出さないが、数百m先には敵がこちらの様子をうかがっている。

敵が砲撃をしては、高い笛を鳴らし突撃してくる。

それを撃退するを繰り返す。

いつの間にか不屈の部隊と言われるようになった。

ある時、誰かが言った。

「爆撃機だ!」

全員が塹壕の各所にある避難所に隠れた。

私は、空を見上げていた。

2つのエンジンを付けた中爆撃機のようにも見える。

だが、私の目には輸送機にしか見えなかった。

護衛の戦闘機もつけず、乱れぬ隊列で飛んでいる。

何をするんだ。私の頭はそれでいっぱいだった。

爆弾ならもう落としている。その時ですらまだ何もない。

空に打ち上げた対空砲の嵐にも動じず、塹壕の後ろに飛んでいく。

しばらくすると、機体の脇から何かが落ちていく。

白い布を広げ、紐で何かを吊るしていた。

私は、頭で理解する前に声を上げた。

「敵が下りてきた!」

私の声に誰も理解ができなかった様子だった。

小隊長が私に近寄り、問いかけてきた。

「どういうことだ!?」

私は瞬時に答えた。

「敵が白い布を使って降りてきている!」

指を指しながら小隊長に答えると、瞬時に言った。

「小隊全員ついて来い!」

小隊長の言葉に隊員全員が従い、降りてくる白い布の方角に走った。

その場所に着くと、やはり降りてきていたのは敵兵だった。

敵はもう地面に降りていて、散り散りに攻撃してきた。

私と小隊は、既に戦闘していた部隊と共に敵兵をせん滅した。

1000名ほどの敵が下りてきたが、数時間のうちに戦闘は終わった。

勝利したが、私はこの奇抜な戦法に恐怖を感じた。

もし敵がもっと大勢で来たら、10000名ほどの敵が降りてきて、前線からの本体と挟み撃ちにされたら。

その恐怖でいっぱいだった。

私は、その思いを小隊長に言った。

小隊長も同じ考えを持っており、上に進言すると言った。

塹壕の持ち場に戻ると小隊長が呼び出された。

持ち場を離れた軍紀違反についてだろう。

私は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

戻ってきた小隊長に謝罪すると、彼は笑いながら許してくれた。

そして、空から降ってきた兵たちの脅威を進言したことも言った。

返答は実に単純だった「心配の必要はない」と。

「あれだけの特殊な兵を育て、無駄にしたのだ。これ以上同じことはしない」

上からの返答は、こうだった。


あれから3か月が経った。

その間、敵の兵が鉄条網(有刺鉄線の障害物)を壊すために度々やって来る。

大抵は一人二人でやってきては、カッターを使って破壊を試みる。

その度に狙撃していたが、脅かせば敵が逃げるのを繰り返していた。

気づけば、敵が来たら適当に撃って追い返すだけになっていた。

ある時、同年代の若い敵兵が顔が分かるぐらい近寄ってきたときがあった。

その時も適当に撃って追い返そうと撃った。

すると脅しビビった敵兵が頭を押さえて、その場に止まってしまった。

私がわざとらしく適当なところに数発撃った。

すると、こちらを見た。

私は、銃を振って「帰れ」と合図した。

敵の去り際、手が敬礼をしたように見えたのは気のせいだろうか。


数日後、奴らはやってきた。

小隊長から敵の大規模攻撃の可能性があると言われた間際だった。

そして、私の恐怖は的中してしまった。

先の輸送機が、今度は20倍ほどの数が見える。

輸送機の後ろを飛んでいたはずの機体がゆっくり降りてきた。

その機体は、以前降りた場所と同じ場所を目指していた。

その場所に向かって飛んでいた機体からも一斉に白い布が開いた。

私は、その光景に美しさを感じてしまった。

1万の一斉に白く咲くバラのごとく降りてくる様子に、そう感じた。

だが、その気持ちは一瞬で砕かれた。

私の小隊だけでなく、数キロに及ぶ部隊が一斉に包囲された。

後に分かったが、降りてきた機体はグライダーだった。

グライダーの中に自動車を乗せ、一斉に攻撃したのだ。

降下と同時に前線部隊の砲撃と笛の音がした。

前線からも突撃をし、挟み撃ちにしてきた。

私は、必死に撃ち続けた。

だが、前にも後ろにも敵がいる。

その意識が皆の戦意をそいでいった。

一波をしのぎ、二派に備えている時、後ろから銃声がした。

先の降下部隊だ。

皆一斉に振り向いて撃った時、前線から笛が鳴った。

隊員全員が呆然としただろう。

その時、小隊長が言った。

「全員、武器を捨て、投降しろ」

その言葉に唖然とした。

いつも隊員の前を走り、軍紀違反は戦いのためだった。

その小隊長が今、戦いから逃れる命令をした。

だが誰も武器を捨てなかった。その様子に再度言った。

「最後の命令だ」

その言葉に皆が従った。

それぞれが武器を捨て、両手を上げて塹壕から出た。

最初ゆっくり手を出し、顔を出し、体を出した。

敵兵が警戒しながらも「ノーファイアー」と叫んだ。

私たちは、手を挙げながら敵兵に近づいていく。

敵は最後まで撃たなかった。


捕虜として集められていた私に、一人の兵士が近づいてきた。

よく見ると脅かして逃がした兵士に似ている。

兵士が板状の何かを渡してきた。

私はそれを受け取り、剥がすとチョコレートだった。

兵士の顔を一回見た後、私はそれに噛り付いた。

久しく忘れていたその味に目がかすんだ。

敵が最後に「サンクユー」と言って去っていった。


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