終章 

第51話 15年前

 「宍戸 駿」について警察が捜査していくなかで、とある情報が浮上してきた。それは、今から15年ほど前に鹿ヶ峰村で起こった事件。


 当時の奉納祭から数日後、鹿ヶ峰の山中で1人の女性が遺体で発見されていた。女性の名前は「毛利もうり 美穂みほ」。年齢は34。

 この女性の事件が上がって来た理由は、彼女には当時13歳の1人息子がいると記録が残っていたから。事件後に彼は親戚筋に養子として引き取られている。


 当時少年だった彼の名前は「駿」。受け入れ先の名字は、「宍戸」。



 ずいぶん昔の事件ゆえ、当時から村に住んでいる人間こそ残っていても、その頃の記憶があるかというとまったく期待はできなかった。


 ただ、この事件にはいくつか奇妙な点が見受けられた。


 まず、「遺体で見つかった」という衝撃ゆえか、その事件自体を覚えている村人はそれなりにいるのだ。

 しかし、人々は口を揃えて、「お祭りの日に村の外からやって来た人が、山の中で道に迷って遭難してしまった」と言う。

 あれは可哀そうな事故だった、といった言い方をするのだ。


 ところが、改めて記録を見ると、亡くなった毛利は間違いなく、鹿ヶ峰村に籍を置く「村人」なのだ。


 宍戸の行方が掴めない中、警察の捜査は15年前の事件なのか事故なのかに、焦点があてられるのだった。



 毛利美穂は、遺体として発見される2年ほど前に村に引っ越してきた人間だった。彼女の夫はこの時すでに他界している。


 夫は元々、誰もが知っている有名食品メーカーで勤めていた会社員。ところが、当時世間を騒がせた「食品偽装問題」で、世間から厳しく糾弾された人間の1人だった。


 食品偽装事件の闇を秘めたままに彼はその渦中で自殺している。その後、残された妻とひとり息子は各地を転々とした。

 ここはまだ推測の域を出ないが――、夫の事件が世間的に有名になり過ぎていたゆえに引っ越しを繰り返していたと思われる。


 そうして彼女たちは鹿ヶ峰村へとやって来る。町から遠く離れたこの辺鄙な村なら世間の噂も流れてこなかったのかもしれない。



 その後、どういった経緯で毛利美穂は遭難し、遺体となって発見されたのかは定かではない。当時は、単なる事故として処理されているのだ。


 ただ、今回の宍戸の事件もあって、当時の事件記録を改めると、奇妙な点が発見される。遺体で発見された彼女が纏っていた服装が、今回動画で配信された山中百合子が纏っている「行衣」と同じなのだ。


 そこから村の記録を辿っていくと、15年前「奉納の演舞」を舞っているのはも毛利美穂だと判明した。すなわち、彼女は演舞を舞った当日に山の中で遭難したと思われ、数日後に遺体となって発見されたのだ。



 村の人間に例の動画の件を聞いても、詳しい話は出てこない。ただただ「村の行事のひとつ」とだけ答えが返ってくる。

 しかし、警察が捜査を進めていく上で、動画に映っていた内容について詳しく話をしてくれる人間が現れたのだ。


 それは他ならぬ映っていた張本人、山中百合子だった……。

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