第48話 ウイルス
投稿された動画の元を辿ったところ、それが鹿ヶ峰村にあるパソコンだと確認できた。警察は今も姿をくらませている「宍戸 駿」が、44チャンネルの投稿者と同一人物だと睨んだ。
しかし、動画の投稿された日時はすでに宍戸がいなくなった後であり、彼が今もこの村のどこかに身を潜めているとは考えづらかった。
――とはいえ、今のご時世、「予約投稿」なんて方法もある。投稿日時に必ずしもパソコンの前にいなければいけないわけでもない。警察の捜査官は、動画の投稿元が十中八九、彼が住んでいた家にあるパソコンだと踏んでいた。
ところが彼らの読みは、ものの見事に外れていたのだ。
警察が辿り着いたのは、村に住む「武田」という老夫婦が使う新品に近いデスクトップパソコンだった。
調査の結果、パソコンの中に遠隔操作を施すためのウイルスが仕込まれており、それによってここから動画が投稿されたことになっていたのだ。
ただ、さらにその遠隔操作の元を辿ろうとすると、海外のサーバーをいくつも経由しているようで、一筋縄ではいかなかった。
さらに警察が捜査を進めると、村民の使う非常に多くのパソコンからコンピュータウイルスが確認された。それらは武田夫妻のパソコンに仕込まれていたものとは異なり、パソコン内に入った情報をインターネットへばら撒いてしまうものだった。
ウイルスはどうやら、ある添付ファイルを乗せたメールを元に拡散したようであり、その元は村の商工会に勤める「岩見」という男性が送信していた。
そのファイルは、一見すると単なる表計算ソフトのデータに過ぎない。しかし、それは該当のパソコンがインターネットにつながっていると、自動的に不正な実行ファイルをダウンロードするようにプログラムされていた。
パソコン内に入った実行ファイルはいわゆる「トロイの木馬」と呼ばれるタイプのウイルスで、特定の条件になると、中の情報をインターネット上にばら撒くよう設定されていた。
その「特定の条件」とは、日付が7月の末日――、すなわち鹿神の奉納祭を迎えたと同時に発動するようプログラムされていた。
このウイルスにより、岩見をはじめとした村人の複数のパソコンからメールアドレスや住所録といったさまざまな情報が漏洩したと考えられる。また、その中の一部には村の商工会で扱うデータといった個人情報の域を超えるデータも含まれていた。
これらが今後、村民にどういった被害をもたらすのか、現段階では警察すらわからない状態だ。
武田夫妻に関してはパソコンの入れ替えを宍戸に依頼しており、岩見に関しても、例の表計算ファイルを「便利だから……」と宍戸につくってもらったと話している。
さらにスマートフォンを勝手に使われていたであろう熊谷も、機器にパスワードをかけているが、一度だけ、宍戸にSNSのアプリを設定してもらうために手渡したことがあると話した。
こちらは現物がないため確認できないが、そのアプリの設定の際にパスワードを不要とする「バックドア」をつくられた可能性が極めて高かった。
一方で、肝心の宍戸が住んでいた家には、彼が住んでいたときの状態がそのままに残されていた。1台、大きなタワー型のパソコンがあり、警察はそれを押収。
しかしながら、その中身はかなり高度な方法でデータ消去が行われており、そこから証拠を見つけ出すのは困難と思われた。
世の中には、データを削除するためのソフトウェアが販売されている。無意味な情報で何万回、何十万回とデータの上書きをかけることによって、元のデータをまったくわからなくしてしまうのだ。こうなると、鑑識が手を出しても元のデータに辿り着けるかどうかは定かでない。
宍戸の家に残っていたパソコンは、まさにそういった状態だった。
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