第9章 祭りの後

第46話 事件

 〇〇県警捜査本部、管轄の鹿ヶ峰村で起こった「ある事件」の捜査が進められている。警察は昨年村に引っ越してきた男性「宍戸 駿」の行方を追っていた。


 しかし、警察が彼を追っているのは決して「行方不明者」だからではない。ある事件の容疑者として彼の名前は浮上しているのだ。



 それは、鹿ヶ峰村が奉納祭を行った日の3日後に判明する。神社のある「鹿ヶ峰」の山中さんちゅうで、全身をテープでぐるぐる巻きにされ、まさに「ミノムシ」状態になった男性が発見された。


 見つかった男性は、この村の駐在所に勤務する熊谷信雄のぶお


 実は彼の捜索願いはその前日から出されており、村人も総出で捜索を続けていた。


 彼が山中に遺棄されたのはどうやらお祭り当日のようだった。――にもかかわらず、捜索が始まったのは昨日から。


 これには村人の間で利用されているSNSが大きくかかわっていた。鹿ヶ峰村の住人は全員ではないものの、その多くが共通したSNSのトークルームに登録をしている。


 ここで日常会話から防犯・災害関係含めての情報共有を行っているのだ。過疎化と高齢化が進んだ村のわりにずいぶんと現代的な取り組みをしていると、警察の人間も驚いていた。


 そのトークルームに熊谷は、お祭りの当日も、そして翌日も……、さらにその翌日もメッセージを送っているのだ。

 後の捜査から祭り当日のメッセージこそ熊谷本人が送ったものだが、以後のメッセージは何者かが成りすまして送信したものであり、電波の発信源もまったく異なる場所であることがわかった。



 お祭りの後、熊谷の姿こそ見かけた者はいなかったが、「彼からのメッセージ」は多くの人間の元に届いていた。それゆえに村人からの通報が遅れてしまったのだろう。


 ――とはいえ、熊谷は一応、警察関係者。近隣の駐在所との相互連絡もあり、定時報告などもあったりする。村の人間が異変に気付かなくても、警察組織が彼の異変を察知したのだ。


 目撃証言を探しながら村の中を隈なく捜索し、普段はほとんど人の立ち入らない山道を進んだ先の、崖の下で彼は発見された。

 3日ほど身動きが取れず、飲まず食わずでいた彼は相当衰弱していた。もう数時間発見が遅れれば命にかかわった可能性もある。それに、今回は無事に済んだが、山の中では野生動物に襲われる危険性も十分あったのだ。


 そういった意味で熊谷は、不幸中の幸いだったのかもしれない。



 病院に運び込まれ、まる1日をかけてなんとか回復した熊谷は、自分の身に起こった出来事についてこう話した。



「――宍戸さんです。自分は彼から飲み物をもらったんですが、きっと睡眠薬かなにかを混ぜとったんでしょうね。気付いたときには崖の下でした」



 事情聴取での熊谷の話にはいくつかの疑問があった。


 祭りの日、他の村人の話を聞いても宍戸は目撃されていないのだ。


 では、熊谷は一体どこで宍戸と会っていたのだろうか?


 そして、本当に彼と会っていたのなら、2人だけで会っていた理由はなんなのか?


 熊谷はここについて明確に話そうとしなかった。記憶が混濁しているようなことを言い、宍戸と会っていたときのこと、彼と話した内容についてだけは一向に口から出てこないのだ。


 彼の記憶が本当にだけがぽっかりと欠落してしまっているのか、それとも口にできない別の理由があるのか……、ここに関してはまだ調査中の段階だった。



 祭り当日、村人の証言から不審なワゴン車が何度か目撃されている。現状の調べでは、村の周辺地域の住民でこれを所持している者はおらず、容疑者の宍戸が利用した可能性が高い。


 彼が熊谷を眠らせ、ワゴン車にて山道まで運び遺棄をしたのか。そして、その足で村から走り去っていったのか?


 目的もなにも今の段階ではわかっていない。「宍戸 駿」とは一体何者なのか。彼は一体なんの目的でこのような事件を引き起こしたのだろうか。すべてがまだ謎のままだった。

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