第30話 SNS
村役場の会議のあと、宍戸は大忙しだった。
『鹿ヶ峰村のSNSアカウントをつくり、情報発信をしていく!』
そう意気込んだはいいが、そのノウハウをもっている人間が誰一人いないのだ。中には「SNSってなんでしたっけ?」と聞く人までいる始末だ。
そうなると、頼みの綱は発案者の宍戸しかいない。彼が情報発信にどれほどのスキルを持っているか不明だが、少なくとも村の役場職員より上なことは間違いなかった。
――とはいえ、彼は一応ナカジマ電気店の従業員として働いている。宍戸の働きのおかげか、パソコン関係の相談が明らかに増えており、中嶋も宍戸を頼りにしているのだ。ゆえに、彼を長期間店から引き抜くことはできない。
その結果……。
「いやー、なんだか悪いねえ? 小田さんにお店のお手伝いなんかさせちゃって……」
「いいえ、とんでもない! 役場にいてもけっこう暇ですから。それにこの歳から新しいことに触れてみるのも案外楽しいものですね!」
逆転の発想で、村役場の女性職員「小田」がナカジマ電気店を手伝ってくれている。そして、店にお客がいない時間は宍戸と小田の2人で「村おこしプロジェクト」を進めているのだ。
元々ナカジマ電気店は、店主の中嶋ひとりで十分切り盛りできていたお店だ。1日の中で、暇になる時間帯の方がむしろ多い。そのため、宍戸と小田のSNSを使った情報発信の計画は見る見るうちに進行していった。
宍戸はSNSの使い方が非常に長けており、メッセージや画像、動画を投稿するにしても、「もっとも人の目に付きやすい時間帯」をピックアップして小田に指示を出していた。
「こちらの熱量に対してすぐに結果が出るものではありません。気長に――、ですが継続的に行うのが大事です。小田さんは一旦、フォロワーの数などは無視して続けることだけを意識して下さい」
細かくやり方を教えつつも、小田のメンタルケアをしっかり行っていく。その姿を見た中嶋は、きっと都会でも「デキる人」だったんだろうなと思った。それと同時に、この人はどうしてこの村に来たのだろうか、とも……。
彼が時々口にする、都会の喧騒に疲れた、田舎や自然への憧れ――、本当にそれだけの理由なのだろうか、と。
村長や小田以外の人間とも意見交換するため、宍戸は時々村役場に呼ばれるようになっていた。
村おこしの進捗を発表する小田。彼女は慣れないながらもSNSの利用を楽しんでいるようで、報告にそれが表れていた。
鹿ヶ峰村のSNSアカウントをつくったとはいえ、現状で特別な変化があった訳ではない。だが、小田以外の役場職員も「なにかを変えようとする」ことを楽しんでいるようだ。
それが宍戸の思い描いていた「村」のイメージとかけ離れており、意外に思うのだった。
村おこしの話し合いがひと段落し、会議室が解散ムードになったとき、宍戸がひとつ提案をした。
「――これは村おこしとはあまり関係のないお話です。少しオーバーな言い方かもしれませんが、村のためを想い、1つ提案をさせてください」
村長や小田も含め、会議室に集まっていた人間の誰もが、宍戸がなんの話をするかを知らなかった。ゆえに、その場を一時の静寂が支配する。
そして、それを破ったのもまた宍戸だった。
「村民で共有できるSNSのグループをつくりませんか?」
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