第4話 パスワード
デバイスの暗号化機能、「ビットロッカー」と呼ばれることもある。
記録媒体に対する一種の盗難対策だ。外にパソコンを持ち出す人は、一般的に起動パスワードを設定していることが多い。これによって万が一の盗難事故があろうとも、中の情報は保護される。
しかしながら、パスワードを入力せずに機器の中身を覗き見する方法はいくつか存在する。しかも、それらは意外と簡単な知識と技術で可能なのだ。
その1つが分解。あくまでパスワードはその機器のシステムがロックをかけているに過ぎない。そのため、データの入った部品だけを取り外して別のパソコンに繋いでしまえば容易に中を見られてしまうのだ。
今回、宍戸が用いた方法はそれだった。だが、簡単な方法でデータが危険に晒されてしまうため、当然この「分解」への対策も近年は施されている。それが「暗号化機能」。
記録媒体単体に暗号化を施し、中身を見れないようにしているのだ。
これは起動パスワードを家の鍵と例えるなら、暗号化は金庫の鍵といったところだろう。
そして、この暗号化を解除するためには「解除コード」なるものを特別な方法で出さなければならないのだ。
昨今のパソコンは、スマートフォンとよく似て「アカウント」と呼ばれる使用者情報の登録が必要となっている。このアカウントには、一般的にメールアドレスか電話番号のいずれかとパスワードが必要だ。
その情報で、登録元のホームページにログインすると、この暗号化の解除キーを見ることができる。
すなわち「解除キー」なるパスワードを知るために、別のパスワードが必要、といった状況だ。なんとも面倒な話だが、今日の情報社会ではこういった事象も案外珍しくない。
「――森さんに連絡して、ご主人が生前使っていたであろうメールアドレスや電話番号、パスワードを聞いてみるしかなさそうですね。こうした情報がきちんと残っていればいいのですが……」
宍戸は、森に記載してもらった申し込み用紙の電話番号の項目に目をやった。こうした田舎ならではなのか、市外局番から始まる固定電話の番号だけが書かれている。
彼は店の電話機を借りて、早速パソコンを持ち込んだ森夫人に連絡をした。受話器の向こうでコール音が何度も鳴り響く。呼び出し音の回数が10回をゆうに超え、諦めて切ろうとした時に電話はとられた。
宍戸はなるべく手短に――、パソコン用語を極力使わないに心掛けながら、現状を伝えた。すると森夫人は、ご主人がさまざまな情報を書き留めていた手帳があるため、それを明日お店に持ち込んでくれると言ってくれた。
これにより預かったパソコンのデータ取り出しは、明日までできることがなくなってしまった。宍戸は取り出したハードディスクや外したネジをひとまとめにして、店の中にある空っぽの収納ケースに入れた。
「一旦、明日までお預けです。店番代わりますよ、店長!」
彼は受話器を置くと、大きな声で中嶋に声をかけるのだった。
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