第5話「シャトルを使ってキーホルダーをつくるのは青春の証だったり」

毎日、夢を見て練習を続けた。


「高崎~、聞きたいことあるんだけどー」


日葵がラケットをぶんぶんと振りながら柚希にシングルスでの戦い方について相談する。


真綾とダブルスを組むようになったとはいえ、シングルスでの実力はピカイチの柚希。


攻撃センスが高いだけでなく、真綾とダブルスをはじめたことで分析力が向上した柚希はまわりのプレイスタイルをよく見るようになった。


「あー、攻め方ねー。影原はカットが上手いから思い切って──……」


「なるほど、それいいね。なんか私のスタイルに合いそう」


すっきりした様子で日葵は柚希の背中をバシバシと叩く。


「ありがと! さすが分析の鬼! ……顔(笑)」


「貶してるの?」


「褒めてる褒めてるぅ!」


少しずつ会話も増え、打ち解けてはきたものの解せぬ想いはある。


そんなに顔が怖いのだろうか、と柚希は頬に指先をあて、ぐにぐにとマッサージをしてみるのだった。


日葵はくすっと笑うとあぐらをかき、横にグラグラと揺れだす。


「何冊になったかは知らないけどさぁ。ダブルスはじめてからノートの増え方、尋常じゃないよねぇ」


口にはしなかったが、同じ部活の仲間として日葵はずっと柚希と真綾を見てきた。


互いを補い、前に進もうとする二人を見続け、練習を積み重ねた。


その熱意を励みに、日葵もまた強くなろうとしていたのだった。


「ダブルスは任せたぞ!」


「……うん!」


お互いを知らずして否定しすぎたのかもしれない。


悪いところばかりみて、牙をむいて……。


どうしても相容れないものもあるが、歩み寄ることも出来た面もある。


真綾以外と組むとダブルスで衝突はあるものの、自分を殺さず相手を生かすプレイを考えるようになった。


たしかに柚希の中で人の見方が変わっていた。



「「いっぽーんっ!」」


「21-12で高崎・野中ペアの勝利!」


「「ナイッショーッ!!」」


勝利に酔い、ハイタッチをする。


対戦相手となっていた二年生のなる村瀬と戸田がタオルで汗を拭いながらコートをくぐってくる。


「いやー、先輩たち強いですね」


「村瀬さんたちの伸びすごいよ。あたしたちも負けてられないねぇ、柚希ちゃん?」


「まだ負けてあげないけどねー!」


腰に手をあて、鼻息をたてる柚希に村瀬がビクッと肩をあげて戸田の背に隠れる。


戸田はふわふわの天然パーマを指でくるくるといじりながらニマニマと柚希を見上げる。


「先輩めちゃくちゃ意地悪ですっ!」


「高崎先輩は勝負事になると途端に鬼化しますよねぇ」


「失礼だな、後輩」


「戸田ちゃんわかってるねぇ~」


「高崎先輩の凶暴性はしっかり目に焼き付けてますから!」


「戸~田ぁ~!!」


牙をむいた柚希が床に転がるシャトルを拾い上げ、戸田に向けてスマッシュを連打する。


戸田はケラケラ笑いながら両手を大きくあげて体育館内を走りだす。


だんだんと当たり前になってきた柚希と戸田の子どもみたいな喧嘩に部長の日葵は呆れて息を吐く。


「高崎もだいぶ変わったけど、まだまだ荒々しいねぇ」


「尖ってる柚希ちゃんも可愛いよ?」


「あんたのタフさも怖ぇよ」


真綾の猫かぶりもまた暴かれており、日葵は癖の強いメンバーに頭を抱える。


この学校は幼い頃からの経験者が集まり、苛烈な戦いが他校よりも多い。


その中で団体戦の選抜メンバーに最有力な人たちは扱いづらい。


真面目な日葵は日々、部長としての責任を全うしようと日誌をつけ、メンバーのことを考えていた。


「た、高崎先輩は怖いし厳しいけど、いつも一生懸命ですよ?」


少し疲れた様子の日葵を見て、村瀬がおろおろしながらも必死に拳を握っている。


「高崎先輩って──本当にバドミントンが好きなんだなーと。そう、思います」


「……そうね」


一年生の頃から共に過ごしてきて、部活を通じて柚希がどんな風に向き合ってきたかを見てきた。


その背を見つめ続けた日葵だからこそ、笑って言えることもあった。


「なんでも突っぱねないで、先輩にも上手いことやっとけばよかったのよ。バカみたいに敵対して嫌われてさぁ」


「それが出来ないから柚希ちゃんだよ? 守ってあげたくなるくらい不器用で、バドミントン馬鹿なんだよ」


「真綾は同級生にまで猫被って……徹底しすぎだっての」


「野中先輩怖いです……」


「戸田ぁあああ! 頭にシャトル乗せるぞコラァ!」


三人の会話に重なるように柚希の大きな声が戸田を追いかける。



「先輩こっっっわ! スマッシュの使い方明らか間違ってます!」


「黙れ! 少しは先輩を敬えっ!」


「そういうのを先輩マウントって言うんですよーっ!?」


なんとにぎやかな日々だろう。


もうすぐ大会も始まる時期だ。


選抜されたメンバーが全校生徒の拍手のなか、体育館を誇らしげに歩く時が来る。


この一年、公式試合はなかったが、ついに日の目を見る。


それを誰一人、疑いはしなかった。

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