第14話 500年前の師弟
「———レオン、私と少し戦わない?」
「? どうした急に? お前戦うの嫌いだったろ」
生徒達を借りた家に送り届けると、レティシアが何気なく口にする。
俺が柄にもないことを言い出したレティシアに訝しげな視線を向けると、レティシアが半目で見返してきた。
「一体何時の話ししてるのよ。それに戦い自体は今でも好きではないけれど、レオンとの手合わせは好きよ」
「でもなぁ……周りがな……」
そう、1番の問題は俺達が戦うことに酔って引き起こされる周りへの被害だ。
結界を張れば良いんだが、そうすると結界の維持に相当な魔力を使うため、レティシア相手には流石に厳しい。
俺が少し頭を抱えていると……ユミルがおずおずと手を上げた。
「あの……結界、張りましょうか……?」
「……貴女が、ね……。大丈夫なのかしら?」
「ま、任せて下さい! 私、こう見えて結界魔法だけは天才だってお墨付きを貰ってるんですっ!!」
私に任せろと言わんばかりに胸を張ってドヤ顔を晒すユミル。
結界魔法が得意とは1度も聞いたことがなかったが、その普段からは考えられない自信ある姿を見て、本当なのかもと思ってしまう。
それはレティシアも同じだったらしく……少し戸惑いながらも頷いた。
「そう……なら任せようかしら」
「ホントですか!? ありがとうございますっ!!」
「何でお前が1番嬉しそうなんだよ」
この中で1番関係なく、尚且つ1番面倒な役をやっているのに嬉しそうなユミルに疑問を抱く。
しかしその疑問はあっさりと解消された。
「当たり前ですよ! 今まで誰一人として見たことのないアイスエルフの族長様と、世界一有名な勇者様が戦うんですよ!? 見てみたいに決まってるじゃないですか!!」
「そ、そうか……」
こうして若干キレ気味に言い放つユミルの気迫に押され、俺達はユミルが張る結界の下、500年振りの弟子との手合わせをすることになった。
「———準備はいいか?」
「バッチリです!!」
「へぇー、意外と良い結界張るじゃない」
場所は変わり、アイスエルフの里から中心に向かって更に離れた吹雪にとって閉ざされた、海が目前に迫る崖上。
俺、レティシア、ユミルの3人は、この誰も足を踏み入れない様な極寒の地に立っていた。
ユミルの結界は、自信満々に言っていただけあり、相当精彩で強固なモノであった。
思わず魔法の天才であるレティシアが称賛するほどに。
「えへへ……私、勇者様の御弟子さんに褒められた……えへへへ……」
「……少し可愛いわね、子供みたい」
「子供とは何ですか、子供とは! 私は立派な大人ですっ!!」
頬を膨らませて怒るユミルだったが、レティシアの次の言葉に完全に論破されてしまう。
「私達からしたら赤ん坊よ」
「うっ……それは……そうですね。———よぉし、早く始めてください! 結界維持するの大変なんですからね!」
「話を逸したわね、まぁ良いけど。ふぅ……久し振りに本気を出すわ。レオンは?」
「俺もだわ。多分弱くなってんだろうな」
「ふんっ、そう言ってどうせ強いんでしょう」
そう言い合いながらお互いに戦闘態勢に入る。
「———ッ!? ふわぁっ!?」
突然レティシアの身体から膨らみ上がる魔力の奔流に、ユミルが情けない叫び声を上げた。
教師がそんな声出して良いのかと思わないこともないが……まぁ今は生徒も居ないし気にしなくてもいいか、と思い直した。
さて……俺もちょっと本気でやるか。
「———ふっ!!」
「ぶえぇぇぇぇぇ!?」
俺は60パーセント程度の魔力を開放し、レティシアの魔力に対抗するかの様にぶつけた。
せめぎ合う2つの魔力の奔流に晒されたユミルは、本気で誰にも聞かせられないような声を上げていた。
まぁ……可哀想だけど自業自得だな。
そんな中、俺もレティシアも溢れ出る魔力の奔流を凝縮させて1つの魔力剣を作り出した。
更に足を片方だけ後ろにやり、少し腰を落として剣の切っ先を相手に向ける。
片手には剣、もう片方には幾重にもなる魔法陣が縮小された状態で停滞していた。
「何方から行く?」
「お先にどうぞ、弟子よ」
「なら遠慮なく行かせてもらうわ———師匠」
言葉を言い切ると同時に俺の目の前に現れ剣を振り下ろすレティシア。
俺は即座に剣を斬り上げて相殺、【風刃】によって反撃。
上体を逸らして避けるレティシアに追い打ちを掛ける様に、彼女を中心とした全方位から【炎球】を放つ。
一瞬の静寂の後———耳を
その威力は絶大であり、ユミルの強固な結界が5重くらい一気に消し飛んだ。
「ふぇぇぇぇぇっ、初級魔法でこの威力なんて予想外ですぅぅぅぅぅぅ……!!」
半泣きで嘆くユミルを他所に……。
「何よ、全然衰えてないじゃない……!」
「まぁまぁそうカッカすんなって。そう言うお前は強くなったな、弟子よ」
爆煙が晴れると、身体を覆うように展開された結界によって無傷なままのレティシアの姿が現れる。
そして何故か忌々しげに睨んできていた。
「どうした、もう終わりか?」
「まだまだウォーミングアップよッ!」
「だよな、俺もだ」
再び剣と剣がぶつかり合い、乱打戦の様に様々な属性の魔法が放たれた———。
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