第13話 天才の弱点

「———まずお前達に聞きたい。お前達は……魔力をどういった意識で使っている?」


 その言葉に皆、言っている意味がよく分からないといった風に首を傾げていた。

 

 まぁ確かに少し難しいだろうが……これが分かってもらえないと何も始まらない。

 この意識こそが魔力運用に置いて最も大切なことだからな。


「何だよそれ。アタシにはさっぱりだ」

「脳筋女と同じというのは癪だが、今回ばかりは僕も分からないな……。魔法を使う時に必要な分を引き出しているとしか……」

「それならアタシも分かるぞ! 気付いたら出来てたんだよ!」

「確かにねぇ~~気付いたら出来てたよねぇ~~」

「ん」

「———はい、お前らアウト」


 俺は2人の会話をバッサリと切り捨てる。

 やはりと言うべきか、こいつ等の魔力運用が壊滅的に下手な理由が分かった。


「お前ら全然駄目だ。これだから天才は……感覚で出来るからこその問題だな」

「なっ!? 煽ってんのか!?」

「ま、マーガレットさん、落ち着いて下さいっ! レオン様の言っていることは間違っていません! 私も前任の先生に同じ事を聞きましたし、私自身同じことを言われました!」

「へー、ユミルを教えた奴はちゃんと分かってる奴だな。そうだ、お前らに足りないのは———理解力だ」

「「「「「「理解力……?」」」」」」


 訝しげに見る教え子達に頷く。


「そそ。お前ら身体の動かし方は武術とかで習ったろ? あれと一緒だ。魔力もしっかり理解しないと無駄が多く本領を発揮できない。天才は理解しないで感覚で出来てしまう。でも凡人は感覚で出来ないからこそその原理や仕組みを理解することに重視し、如何に少ない魔力の中で効率的に魔法を発動させるか、身体を強化させるかを考えるってわけだ」


 そう、全て感覚又は少し教わっただけで出来る天才と違い、凡人は努力しなければ魔力運用どころか魔力を操作するのでさえも習得に時間が掛かる。

 だが逆に言えば、努力してしっかりと理解しているからこそ、より効率的に魔法や身体強化を行えるのだ。

 また、それらが原因で天才が逆境に弱いと言う結果にも繋がるわけだ。


 今のこいつ等は……ただ何となく魔力を引き出し、膨大な魔力で無理やり魔法を発動させているだけに過ぎない。


「ということで———お前らには凡人と同じレベルまで魔力の感応力を妨害させてもらった。空気中の魔力が多いほど体内の魔力を感じるのが困難になり……適当に操作していたお前らには扱いにくくなるだろう」


 後は自分で考えて頑張れ。


 俺はそれだけ言うと……困惑するレイナ達をよそに、500年以上も前に張ったこの魔法陣の修復に移った。













「———まぁ大方予想通りだな」

「はぁ……はぁ……何で……」


 授業開始から既に5時間が経過しようとしていた。

 俺は苦しげに唇を噛むレイナを見ながらそう溢す。


 まぁ最初から出来るなどと思っていない。

 今まで出来てたことが出来なくなる方が、出来ていなかったことが出来るようになるより難しいからな。


 レイナは勿論のこと、1番魔力運用に長けていたマハトですら既に魔力切れで寝ている。

 その他の面々も頑張っている様だが、誰一人として成功したものはいなかった。


 もう魔力も尽きているはずなのにまだやろうとするレイナを止める。


「止めとけ、レイナ。今のお前じゃ絶対成功しない」

「な、何でそう言い切れるの、ですか……」


 レイナはフラフラになり、目も虚ろになりながらも俺を見据えた。

 その根性は大変素晴らしいと思うが……。


「その状態はもはや極限状態を通り過ぎているんだよ。それ以上は無駄だ、どうせ出来ても身体も意識も覚えていない」


 確かに極限状態での修練は効果が増すが……あくまでそれは意識がしっかりとしている時だけだ。

 今のレイナのように意識が朦朧としている中でやった所で大した成長に繋がらない。


「そう、ですか……」


 レイナはそれだけ言うと、ふっと力を抜いて気絶。

 俺が倒れそうになったレイナを支えようと手を伸ばし……た所で突如レイナの身体の動きが止まる。

 それど同時に俺はため息を吐いた。


「無闇にその魔法を人に使うなと言ったはずだぞ———レティシア」

「何よ、別にいいじゃない。もうこの程度の魔法でミスする年じゃないわよ」


 上空から現れたレティシアが不服そうに言い返してくる。

 しかし魔法陣を見ると……露骨に顔を歪めた。


「うわっ……私の大嫌いなモノじゃない」

「ほら、お前の後輩が現在進行系で苦しんでるぞ」

「止めて、言わないで。私のトラウマの1つなのよ」


 確かに昔、レティシアも魔力運用に死ぬほど苦労していたからな。

 毎回魔力切れを起こすのは少々トラウマになっても仕方ないか。


「レティシア、こいつ等を休ませれる場所ってあるか?」

「先に聞いておきなさいよ……まぁいいわ、こっちよ」

「ユミル、運ぶの手伝ってくれ」

「あ、はいっ!」


 俺とユミルは生徒を担ぎながらレティシアに付いて行った。

 

 


 

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