第10話 レティシア
「———貴様……何者だ……?」
「今は教師をしている者だ」
「教師、だと……?」
訝しげにスッと目を細める青年に、俺は頷きながら背後を指差す。
「ああ。そんでアイツらが俺の教え子」
「私は違いますけどね!? 私も教師ですから!!」
こう言う時でもツッコミを忘れないその姿勢は俺は良いと思うぞ。
ある意味メンタル最強とも言えるユミルに内心感心していると……青年は眉間を押さえながら弓を降ろす。
それと同時に他のアイスエルフも未だ敵意を向けながらも弓を降ろした。
「……一先ず貴様が俺達では敵わない程強いことは分かった。そして此方に敵意がないのも」
「それは良かった」
「———だが、何故貴様がレティシア様の事を知っているのかが分からない以上……取り敢えず拘束して村まで来てもらうぞ」
まぁそうだろうな。
拘束せずに村に連れ帰ればそれこそ大問題だろ。
俺は両手首をくっつけて前に出す。
「どうぞ。———あ、拘束は俺とユミルだけにしろよ? コイツらまだ弱いから」
「分かった。どうせ貴様以外はどれだけ暴れようと余裕で殺せる」
「———なっ!? おい、今の言葉取り消———」
「黙れ脳筋女……ッ! 全部事実なんだから一々突っかかるな!!」
「は、離せよガリ勉! アイツがアタシを弱いと言ったんだぞ!!」
「よせ、マーガレット。死にたいのか?」
「ぐっ……」
クルトに羽交い締めされながらも尚暴れるマーガレットを睨む。
すると、流石に死にたくはないのか思いっ切り歯を噛み締めて悔しげな表情をした。
大人しくなったマーガレットを横目で見た後———。
「よし、では特別に貴様らを連れて行ってやろう———『氷の里』に」
青年はそう言って俺達の視界を吹雪で覆った。
「うわぁ……す、凄い……なんて高度な魔法を……」
「当たり前だ。我らはこの過酷な地で生きなければならないからな」
アイスエルフの里に建った、様々な魔法の付与された住居や里全てを覆う強大な結界を見てクルトが漏らすと、少し誇らしげに青年———マクシミリアンが言う。
この里の住居は、年がら年中極寒なので主に雪や氷を使用しており、そこに断熱性能や溶解防止などの魔法を付与しているようだ。
見た目は完全に氷と雪で出来た、人間世界の邸宅と殆ど変わらない見た目である。
ただ、普通の氷や雪にこれ程の魔法を付与するには相当な技術が必要であり……レティシアが如何に腕を上げたかが伺える。
それに、昔に比べて人口も増えているように感じる。
初めの頃は20人程度だったが、魔力感知で調べてみた所……今では数百人もの規模に膨らんでいることが確認出来た。
アイツもアイツで頑張ったんだなぁ……偶には会いに行けばよかったか?
「それで、レティシアは何処だ?」
「レティシア様と呼べ、人間! 貴様、無礼だぞ!!」
呼び捨てで呼ぶ俺にマクシミリアンが激昂する。
確かに族長を余所者が呼び捨てにすれば怒るのも分からないでもないが……。
「今更アイツに様を付けるものなぁ……昔様付けで呼んだらキレてたし」
「何を言っている、人間? レティシア様はもう500年以上はこの里を出てないが?」
マクシミリアンが『コイツ頭でもイカれたか?』とでも言いたげな呆れたような視線を俺に向けてくる。
更に他のエルフも同じ様な視線を向けていた。
「あー、この反応懐かしいですねぇ……」
「……そうですね、確かに私達と同じ反応です」
そしてそんなエルフ達を眺めながら苦笑するユミルとレイナ。
唯一マーガレットだけは渋い顔をしているが。
「……な、何だ、この視線は……何故我らが憐れまれている?」
「コイツらは既に体験済みだからな」
「何が———お、おい! 何処に行く!?」
突然先々と歩き出した俺を止めようとするマクシミリアンに告げた。
「いや、レティシアの所にだけど?」
「…………は?」
ポカンと呆けた様子で声を漏らすマクシミリアンだったが……直ぐに再起動してカッと食って掛かる。
「何故余所者の貴様がレティシア様の居場所を知っている!? 本当に何者だ貴様は!!」
「おいおい落ち着けよ。周りが見てんぞ」
さっきからずっと見られてんだよな。
まぁ人間が居るからってのもそうだけど……コイツが騒がしいせいもあるんじゃないか?
何て思っていたその時———。
「———レオン……?」
突如透き通った繊細な声が聞こえた。
俺の対面に居るマクシミリアンは目を見開いて硬直している。
俺がその声の方に目を向けると……。
「……嘘……本当に、レオンなの……?」
信じられないと言った風に淡い白銀の目を見開いて口元を手で押さえるレティシアの姿があった。
昔に比べて美しく成長したレティシアだが……1番変わっていた所はロングだった白銀の髪がセミロングになっていた所だった。
エルフなので基本殆ど成長しないからなのだが。
「おお……久し振りだな、レティシア。500年振り……いや、400年振りくらいか? 元気だったか?」
俺が軽く手を上げて言うと、レティシアは綺麗な瞳から一気に雫を溢れさせた。
しかし直ぐに溢れた涙を拭くと……足早に此方に向かってくる。
そして———。
「———……んっ!!」
「痛っ!? 何で殴る……」
いきなり俺の胸を殴ったかと思うと、そっと手を後ろに回して抱き着いてきた。
俺はレティシアが小刻みに震えているのに気付く。
おいおい……昔と変わんねぇなぁ……。
「相変わらず泣き虫だな、レティシアは」
「……五月蝿い、薄情者……。もう会えないかと思った……」
俺が揶揄いながら頭に手を乗せると……レティシアは顔を埋めながら小さく呟いた。
因みに———俺等2人以外は何がなんだかよく分からず困惑の表情を浮かべていたのは言うまでもない。
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