第9話 アイスエルフ
「れ、レオン様……本当に行くんですか……?」
全員が魔力を纏えるようになってから2時間。
ユミルが先程のドヤ顔はどこに行ったのか、と思わずツッコみそうになるくらいビクビクしながら言ってくる。
「どうしたユミル? 助教がビビってどうすんだ」
「だってアイスエルフですよ!? 特に私達人間と仲が悪い種族じゃないですか!!」
そう、アイスエルフは過去にこの地域の所有権を巡って人間と対立して戦争まで行ったため相当人間と仲が悪い。
何も知らない人間が間違って入っても、尋問に掛けられるか殺されるだろう。
「お、よく知ってるな」
「これでも教師ですからね!!」
自分で『これでも』って言うなよ……。
まぁ間違ってないけど……。
無駄に自分の評価が正確なユミルが涙目でヤケクソ気味に叫ぶ。
「そうですよ、私はどうせドジでマヌケでおっちょこちょいで美人でスタイルいいだけの魔法使いですから!」
「ツッコミ待ち? 途中から無駄に自己評価高いな」
「無駄に、じゃないですよ! 全部事実です!」
まぁ確かに美人だしスタイルもいいが……。
「それ以外のデバフが高すぎてなぁ……」
「ん、私もそう思う」
「ですね、俺もセンセと同意見ですよ」
「う、嘘ですねよ……? ———うわぁぁぁぁん! レイアさあぁぁぁぁん!!」
俺、メイ、マハトの無慈悲な言葉と、クルト、マーガレットの無言の目逸らし、ユージンの慰めるような笑みを見てユミルが情けなく、1番前に居たため唯一話を聞いていなかったレイナに抱き着く。
突然抱き着かれたレイナは可愛らしく悲鳴を上げる。
「ひゃっ!? ちょっ、ちょっと先生……っ?」
「レイナさぁぁぁぁぁぁん、皆んなが私を虐めるんですぅぅぅ……!!」
「え、えっと……よ、よしよし……?」
レイナは全く状況を掴めないながらも、困惑の表情でユミルの頭を撫でる。
そんな姿を見ながら……。
「レイナって将来良いお母さんになりそうだよな」
「確かに! アタシなんかより立派な母になるぞ!」
「な、何を言っているのですか……? それより、可哀想なのでユミル先生を虐めるのを止めて下さい」
少し恥ずかしそうにそう言って抱き着くユミルの頭を撫でるレイナの姿は———誰がどう見てもユミルより年上に見え———。
「———ここからは気をつけろよ、お巫山戯はナシな」
「ど、どうしてですか?」
段々と背の高い木々が増えてきた辺りで突然立ち止まり警告する俺に戸惑うレイナ。
他の面々も同じ様に困惑している。
俺はそんなメンツに告げた。
「今俺達が居るのが———まさにアイスエルフの領内だからだよ」
———アイスエルフ。
エルフ族が遥か昔にこの地に住み着き独自の進化を果たしたエルフの近縁種族。
見た目は通常のエルフとそこまで変わらないが……唯一、髪と瞳が全員青みがかった銀色をしている。
そして魔法は氷と水に絶対的な適性を持っており、俺が知っているアイスエルフの長は氷の精霊王と契約を結んでいた。
つまり———めちゃくちゃ強い。
「……先生、これは……」
「ああ、遂にお出ましだが……それは駄目だ」
「えっ……」
目を細め、辺りを警戒するレイナの剣の柄に置く手を止める。
『何故?』と言う感情で埋め尽くされた困惑の瞳を向けられるが、俺は人差し指を口元に当てた。
「まぁここは任せとけ。皆んなも絶対敵意を向けるなよ、自然体でいろ」
俺はそう言った後、皆の前に歩み出ると……吹雪が吹き荒れる森の中で、掻き消されないように声を張り上げた。
「もう分かってるから出てこい———ッ!! 安心しろ、絶対に危害は加えないと誓おう!!」
「———その言葉を我々が信じられるとでも?」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
「ああ、信じてくれ」
突然吹雪の中から姿を表した、1人の青みがかった銀色の瞳と髪のエルフに俺は言う。
しかしアイスエルフの青年は訝しげに俺を睨む。
「到底信じられない……貴様らは何者だ? 返答によってはこの場で殺す———ッ」
「「「「「「「っ!!」」」」」」」
「おい、落ち着けお前ら。大丈夫だから何もするな」
「……我らを相手に1人で7人も守れるとでも?」
青年がそう言うとーーー木の幹から伸びる枝、木の陰、吹雪の中など様々な所から10人程の男女のアイスエルフが現れた。
全員俺達に敵意全開で弓を番え、肩には顕現した光の玉状の下級精霊を乗せてジッと此方を睨んでいる。
そして一番初めに姿を表した青年は、体長30センチ程、羽の生えた白銀の少女姿の中級精霊を顕現させていた。
「……」
俺はそんな中で思案していた。
ふむ……どうやらこの青年がこの中のリーダーらしいな。
魔力の扱いと契約精霊を見た感じ……120歳くらいか?
結構才能があるらしいが……アイツには遠く及ばないな。
昔偶然助け、少しの間共に旅をしていたとある天才アイスエルフの事を考え———。
「残念だが———俺を相手取るならレティシアを呼べ、坊や」
雪の積もる地面が俺を中心に一瞬にして広範囲に渡り凍結する中、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
そんな俺の言葉に———青年は目を大きく見開いて驚愕の声を漏らした。
「馬鹿な……な、何故人間の貴様がレティシア様———族長の事を……。いや、何故人間如きがレティシア様の魔法を……」
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