第8話 極寒の地

 ———1時間半後。


 俺達は、1年S組全員を乗せた10人乗りの『白銀狼車』と呼ばれるシルバーウルフ3頭が引く車に揺られていた。


 シルバーウルフとは、主に極寒の地に生息するモンスターであり、群れのボスともなれば体長5メートル以上にもなり、雪山を駆けるため強靭な身体に、美しい白銀の体毛に覆われた姿は、一部の登山家やモンスター愛好家の間で『雪山の王』とも呼ばれて敬われているほどだ。

 しかし非常に大人しくて温厚であり、尚且つ高度な頭脳まで持ち合わせているため、こうして極僅かだが、人間と共存して車を引かせているところもある。

 勿論こういったモノを引かせている場合は、シルバーウルフが了承しているときだけなので、無理矢理というわけではない。

 

「センセ、シルバーウルフなんて初めて見ましたよっ!」

「僕もです……! 正直今すぐ触ってみたいです。シルバーウルフの毛は肌触りが良く防寒性に優れていると聞きますので……!!」


 早速希少なシルバーウルフに興味津々のマハトとクルトが、年相応な幼いキラキラとした表情でシルバーウルフを眺めていた。

 マハトはどうやら動物が大好きらしく、こういった場合は寝ないのだとか。


 因みにこの2人とレイナ以外はユミルも含めて爆睡している。

 お前ら勿体な、と思わないこともないが……まぁ後でつらい思いをするので今くらいは休ませておいてもいいだろう。

 

「まぁお前らが喜んでくれるなら良かった。高い金で雇ったかいがあるな」


 ほんと、軽く中流貴族の収入1年分くらいがあっさりと無くなるからな。

 俺は数百年の蓄えと、適当に魔法付与して売れば幾らでも稼げるから良いけど、普通の奴なら絶対に馬車を2つ借りるだろうな。

 そっちの方が圧倒的に安いし。


「ありがとうございます、センセ!」

「おう、どうせなら楽しんどけよ」

「———レオン先生……」

「ん? どした、レイナ?」


 俺右隣に座るマハトが俺に抱きついて来る中、左隣に座るレイナが少し表情を険しくして尋ねてくる。


「物凄く嫌な予感がするのですが……今私達は何処に向かっているのですか?」

「あ、アタシも気になる! もう2時間くらいずっと走ってるけど何処に行くんだ?」

「えぇー、今聞きたい?」


 尋ねる俺に、レイナとマーガレットが何度も頷いた。


 本当は着くまで隠しとくつもりだったけど……そこまで言われるとなぁ。

 仕方ない、教えてやるか。


「———これ訊いて帰りたいとか言っても知らないからな」

「「「「え??」」」」


 顔を強張らせた2人と周りで聞き耳を立てる2人に告げた。



「これから———極北東の『アイスエルフ』の村に行くぞ」



 行き場所を告げた瞬間———。


「「「「……え……?」」」」


 4人が4人とも全く同じ、唖然としながら声を漏らす。

 最初から険しい顔をしていたレイアや知識豊富なクルトは兎も角、何ならあのおバカキャラのマーガレットすらも血の気が引いたようにサッと顔を青くしていた。


 では何故皆んながこんな反応をするのか。

 それは———。



 ———世界で最も過酷な場所の1つと言われる場所に住む種族の名前だからである。











「———よし、これからは歩いて行くぞ。準備はいいかー?」

「大丈夫ですよ、レオン様!」

「「「「「「「……」」」」」」」


 俺は、吹雪が吹き荒れる一面雪化粧の施された木が殆ど無い場所でそう告げる。

 しかしユミル以外の6人全員があまりの寒さに声も出ない模様。


 あーあ、やっぱりまだまだ子供だな。

 そのままだったら死ぬぞ……。


「はぁ……こう言う時こそ魔力で体を覆えって。ほら、何時もは頼りないユミルを少しは見習え?」

「そうですよ皆さん! 普段は私の事を下に見ているかもしれませんが、私実は凄いんです!!」


 言ってることは情けないユミルだが……流石教師というべきか、無駄のない魔力運用で最低限の魔力を放出して身体を覆っていた。

 この寒さの中だと言うのにムラも殆どない。


 しかし、こんな時でもユミル虐は止まらないらしく……。


「いや、ユミルちゃんは先生じゃん? なら出来て当たり前だと思うんだよね~~」

「ん、私もそう思う」

「まあ……普通に考えて俺とかと同レベルだと駄目ですよね」

「酷いですっ!? こう言う時くらい私を先生として見てくださいよっ!!」


 何て言っていると———。


「ふぅ……ふぅ……で、出来ました……」

「お、流石だなー。まだ無駄は多いけど……良いんじゃないか?」

「あ、ありがとうございます……」


 何と僅か数分で、レイナがこの極寒の中、魔力で身体を覆った様で、一気に頬の赤みが戻ってきた。

 始めは俺が手伝おうと思っていたのだが……どうやら必要ないみたいだ。


「あ、出来ました……確かに物凄く温かいですね、センセ」

「お、マハトも出来たか。だろ? それ出来ると暑い所も楽だぞ」


 レイナに少し遅れてマハトも身体を魔力で覆う事が出来た様で、一気に元気を取り戻して雪で遊び始めた。


 『子供かっ!』と思わずツッコみそうになるが……よく考えれば普通に子供だったので何も言わないでおくことにした。


「それじゃあ……レイナもマハトも出来るんだし、皆んなが出来るまで先には進まないでおくか」

「「「「「えっ!? それは本当……?」」」」」

「ん? 当たり前だろ? 大丈夫、寝るときは温かくなるようにするからな」

「「「「「き、鬼畜過ぎる……!!」」」」」


 俺が親指を立てると何故か非難された。



 ……思春期の子供って分からないな。



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