第7話 次の授業は……。

『———なぁ知ってるか~~坊主~~!?』

『何が? 主語がねぇよ爺さん』


 ある日の野宿中、辺りの警戒をしていた俺に突然、酔っ払った魔術師の爺さんがだる絡みしてきた。

 俺は相手にするのが面倒だったので適当にあしらっていると、真っ赤な顔で『のり悪いなぁ~~!!』とか言って勝手に話し始める。


『この世にはなぁ~~神の力を持って生まれる奴がいんだよ!』

『五月蝿い爺さん。モンスターにバレる』


 仮にこうあしらったとしても……。


『黙れ小僧!! いいから儂の話を聞けッッ!!』


 こうして全くの無傷で話すのだ。

 もう諦めて武器を用意し始める俺に、爺さんが唾を飛ばしながら言う。


『このまえ助けた小童がおったろう!? あやつ———伝説の予知能力者だったんだよ!!』

『とうとうボケたかこの爺。おい、〇〇〇〇。この老いぼれ魔術師〇〇に回復魔法掛けてくれ』

『儂は嘘などついておらんし妄言でもないわ! 歴とした事実しか言ってない!!』

『嘘つけ。酒に酔ったヤツの言葉は信用出来ん———チッ……やっぱ出たか』


 そう言って剣を構える俺の前方には、複数のモンスターの姿が。

 

『何だぁ……モンスターじゃねぇか! 儂が酔ってるせいか何体もおるぞ!!』


 酔ってるせいじゃねぇんだよ爺さん。


『元々何体も居るんだわ。おい〇〇爺さん、アイツら倒して酔いでも覚ましてこい』

『ムムム……別にいいが……後でちゃんと儂の話を聞けよ!?』

『あー……予知能力者の話?』

『その通り! その予知能力者の名は———』


 ……


 …………


「———起きて下さい、レオン先生」

「……んあ? んん~~おー、やっと良くなったかぁー」


 学園長室から教室に戻って来ること3時間。

 目を覚まして伸びをする俺の目の前には、怒り顔のレイナの姿があった。


 何か懐かしい夢を見た気がするな……。

 全く内容は思い出せんけど。


「レオン先生、いい加減にして下さい」 

「お、おい……分かったから一先ず俺の身体を揺さぶるのを止めてもらおうか」

「……ヤダ、楽しい」


 俺はレイナに小言を言われながら身体を揺さぶってくるメイに言うが、何故か止めてくれない。

 更に、気付けば既に皆揃っており、後は俺が起きるのを待つだけ……といった状態であった。


「はぁああああ…………よし、それじゃあ授業を始めるか。今回は———疲れたし各々好きにしな。俺は寝る」

「「「「…………は?」」」」

「ほんと? ならセンセと一緒で俺も寝よ」

「……ご飯食べる」


 そんな困惑4、一瞬で順応2の教室内で———俺は再び寝ることにした。










「———別に寝てても良くないか? アイツらだって勝手にやるだろ」

「ダメです!! 教師が率先してサボってどうするのですか!?」


 俺は現在進行系で帰ってきたユミルにお叱りを受けていた。 

 そんなユミルの横ではレイナが腕を胸の前で組んで俺に冷ややかな視線を向けている。

 逆に俺の両隣では、同じく寝ていたマハトと、早弁していたメイが俺と同様に正座していた。


「センセ、俺と同じですね」

「だな。やっぱ寝るの最高だよな」

「……何で私まで?」


 中性的な美貌と声色で朗らかに少し楽しそうに笑うマハトに、マハトに同意しながら欠伸する俺、不服そうに半目でユミルを睨むメイ。

 そんな問題児2人と俺に———。


「何で授業中寝るのですか!?」

「眠たかったからですよ、ユミルさん」

「……私は寝てない」

「メイさんが1番おかしいですよ!? 授業中にご飯を食べる人なんて初めて聞きましたよ、私は!!」

「まぁそんな怒るなってユミル。頭の血管が破裂するぞ?」

「余計なお世話です!!」


 ———ユミルは血管が浮き出るほど顔を真っ赤にして怒っていた。

 正直怖くないユミルのお小言に上の空だった俺達だったが……次はレイナが俺達の前に立ち塞がる。

 絶対零度の目線で俺達を見据えると……。


「———ちゃんとして下さい」


 底冷えするような声色で言い、暗く黒い笑みを浮かべた。


「だよな、俺もそう思ってたんだよ」

「センセ、これからは一緒に頑張りましょうね」

「ん、ご飯食べない」


 そんな圧倒的な威圧感に、俺達は速攻考えを180度変化させる。

 後ろで『私が先生なのに……』と何故か落ち込んでいるユミルは面倒なので放っておくとしよう。


「それでレオン先生、これから何をするのですか?」

「はぁ……そうだな……。じゃあ何するかなぁ……」


 レイナに言われて考えるも……流石にすぐには思い付かない。

 

 何か皆んなが出来てなかったのってあったかなぁ……。

 基本動きは悪くないし、判断は実践で鍛えるとして…………あ、1個あるわ。


「———そういえばお前ら全員魔力運用下手すぎだったな」

「ああッ!? さっきまで寝てた分際でいい度胸じゃねぇか!! アタシの何がダメだってんだ!?」


 先程まで静かだったくせに、席を立っていきなり突っ掛かってくるマーガレット。 

 しかしそれはマーガレットだけでなく、目の前のレイナや後ろで分厚い魔導書を読んでいたクルトも眉を顰めていた。

 

「レオン先生……私達の一体何がダメなのですか?」

「そうだなぁ……まず魔力の無駄遣いだろ? 後、身体強化の発動のムラと持続力のなさに魔法を使う時の制御の甘さ……まぁ上げていったらキリねぇな」

「うっ……」


 俺が指折り数えながら言うと、マーガレットは気圧されたように声を漏らした。

 ただ……。


「安心しろ、マーガレット。レイナもクルトも……何ならマハト以外皆んな杜撰だから」

「何だそれを早く言えよ! だってよガリ勉! お前、アタシと同レベルだって!!」

「五月蝿いよ脳筋女。———先生、そう言うならどうすれば良いんですか?」

「ん? まぁそうだな……」


 俺は頭の中で適当に授業の流れを考えて……。



「———お前ら、今から家帰ってお泊りの準備してこい、修行に行くぞ!!」

「「「「「「「……………は?」」」」」」」



 唖然とする生徒とユミルを見ながら『バンッ!』と教卓に手を置いて告げた。


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