第6話 予言書
———20分後。
俺は窮屈だったため少し着崩したワイシャツについた砂埃を叩く。
それを終えると適度な運動後に出る不快ではない汗をタオルで拭った。
「いやぁ……久し振りにこんな運動したなぁ」
「レオン様、完全にやりすぎですよ!?」
ユミルが地面に倒れて完全に伸びている6人を指差して言った。
レイナ、メイ、ユージン、マーガレットの4人は辛うじて意識はある様だが全身の痛みから立ち上がれない模様。
そしてクルトは魔力切れで気絶し、マハトは相変わらず寝ている。
「保護バッチはどうして機能しないのですか!?」
「ん? 機能してるんじゃないか? 皆んな死んでないじゃん」
「そう言うわけでは……因みに何で4人は倒れているのですか?」
不思議そうに4人を見ながら首を傾げるユミルだったが……。
「筋肉痛」
「ええぇ……」
何故か俺の一言でドン引きした様な声を漏らした。
いや、ドン引きと言うよりは引き攣った様な、訝しむような、そんな表情だった。
「おい、何だよその反応は」
「ひえっ!? やっ、皆んな優秀な生徒なので20分くらいで此処までなるものなのかな……と思っただけです!」
「…………お前、ほんとに教師?」
「酷いです!? 私はちゃんとした教師ですよっ! 1年目ですけど!!」
そう言って頬を膨らませるユミルに、俺は合点いったと言うように拳を手に打ち合わせた。
「なるほど! だからこんなに子供っぽい動きでわたわたと落ち着きがないんだな」
「酷いですよレオン様ー!!」
「———あの……取り敢えず助けてくれませんか……?」
「「あ、ごめん(なさい)」」
意識を取り戻したらしいクルトにおずおずと言われて、俺達は素直に謝った。
「———それで……あの子達はどうじゃった?」
「そうだなぁ……まぁ素質はあると思うよ」
絶賛レイナ達が保健室で治療を受けている中、俺は学園長に呼ばれて学園長室に来ていた。
因みにレイナ達を保健室に預けた際に、可愛い先生が居たのだが……皆を見た瞬間に「私の可愛い生徒達に何してくれとんじゃゴラァ!?」と殺意すら篭った瞳でガンを飛ばされたのだ。
そのため逃げるように保健室から出てきた所……学園長の爺さんに呼び止められたというわけである。
学園長は俺が下した判断に、少し表情の険が取れてホッと安堵のため息を吐く。
「それはよかった……」
「ただ、俺並みの力を手に入れれるかは不明だし、俺を超えられるかはもっと怪しい———そんなレベルだ」
正直才能は凄まじいが、精神的な強さで言えば昔の人に比べて圧倒的に弱い。
「………なぁ爺さん、何でアイツらに勇者なんてやらせようとしてんだ? 勇者が光だけではないと分かっているのか?」
俺は、最初からずっと気になっていたことをド直球に訊いてみる。
此処での返答次第では、俺が姿をくらませる必要も出てくるかもしれない。
あの家には愛着があるんだがなぁ……。
若干ホームシックになっていると……学園長の爺さんが神妙に頷いた。
「……そうじゃな、分かっておる」
「なら分かると思うが、勇者は……子供には判断出来ないくらい大きな選択をしないといけない」
例えば、魔王軍の中心核の奴らを倒すために何千の命を見殺しにする、とかだ。
勿論俺はこう言った考えは嫌いだが……いつか必ず選択する日が訪れる。
勇者として魔王を討伐する以上、たった10人以下で行動せざるを得ない以上は避けては通れぬ道だ。
俺自身、何度も通ってきた。
勿論出来る限り抗ってみたりもしたが……どう頑張れど全てが救えるわけじゃない。
そんなこと———それこそ神にも不可能だ。
しかし今俺達は、そんな神すら不可能なことを子供に半ば強いろうとしている。
大人が何もせず、ただ幸せを享受して勇者と言う名の子供に押し付けて過ごそうとしているのだ。
「子供を勇者に仕立て上げる理由は? 俺を誘き出すための大義名分か?」
「ち、違う、それはない! 儂はただ———予言に従ったまでじゃ」
「……はぁ?」
予言……?
未来を識るのはもはや神の領域の話だろ。
俺の威圧に息切れを起こす学園長の爺さんだったが、何とか息を整えてソファーに座り直すと詳しく話し始めた。
「———で、予言って?」
「200年前に見つかった、未来に関することが書かれた書物じゃ」
「何だぁその嘘っぽい本は」
正直全く信じられない。
大方誰かが適当に書いたのが偶々当たったとかの方が可能性ありそうだ。
「儂も初めは勇者様と同じじゃ。誰かの悪戯はないかとな。じゃが……魔王の誕生だけでなく、その200年の間に起こった細々とした事件まで———その全てが合っていた」
「……それで、何でアイツらを勇者に?」
俺が目を細めて訊くと———。
「書物に———『災厄を倒せし6人の勇気ある者と……私を救いし最高の勇者様が世界を救う』……そう書いてあった」
そう言うのだった。
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