第5話 元勇者VS勇者候補生
「———さ、流石俺の後輩達だな」
「……何か動揺してないか?」
「そんな訳無いだろ、マーガレット。俺は元勇者だぞ」
俺は意外にも時間通りグラウンドに集まった6人の生徒達を称賛するが……マーガレットが訝しげに此方を見てきたので、即座に取り繕う。
ただ、動揺してしまったのは歴とした事実だった。
我ながら結構無茶苦茶な時間言ったつもりだったんだけど……。
俺は生徒達全員に目を向ける。
レイナは防具を身に着け女騎士の様な格好で、白銀の剣が腰に下げられていた。
そしてクルトは焦げ茶のマントと黒を基調とした幾重にも魔法の付与された短杖を所持している。
勿論ガチ装備はこの2人だけで、他の生徒は制服のままであった。
マーガレットは真紅のガントレット、メイは少し刃の反った短剣、ユージンは空色の双剣。
しかし———1人だけ何も装備していない生徒がいる。
「マハト、お前はそれでいいのか?」
「何、センセ?」
俺の呼びかけに、ずっと寝ていた印象しかないマハトが、男にも女にも聞こえる中性的な声色で不思議そうに訊いてくる。
見た目も中性的で髪も長いので、俺が予め生徒の情報を貰っていなければ分からなかったかもしれない。
「いや、装備だよ装備」
「ああ……装備———はい、これでいい?」
そう言うマハトには、先程まで何もなかったというのに、一瞬にして聖職者の服と杖を身につけた。
「あー……よし、それじゃあ早速戦うか」
「センセ、保護バッチは?」
考えるのが面倒になって言った俺に、マハトが訪ねてくるのだが……。
「…………保護バッチって何?」
「はい?」
「知らないんですか!?」
「え……あー、うん、全く知らん」
本気で知らず首を傾げる俺に、真面目系生徒筆頭のクルトが驚きの声を上げ、レイナが半目で俺を見てきた。
他の各々も2人ほど反応はしていないが、少なからず驚いている様子だった。
いや、500年前にそんな物は存在しないんだよ。
だからそんな顔で俺を見ないでほしい。
「僕はてっきり先生がユミル先生に頼んで持ってこさせているのかと思いました」
「あ、確かにユミル居ないな」
「———私を忘れないでくださいよっ!!」
いつの間にか手に沢山のバッチの入ったカゴを持ったユミルが、キレのあるツッコミを繰り出してきた。
ただ、ちょっと可哀想なのと、普通にファインプレーなので取り敢えずお礼でも言っておく。
「すまん、ユミル。それとありがとう」
「……いいですけど、次から忘れないでくださいよ?」
お礼を言われて満更でもなさそうなチョロいユミルに、俺は笑顔で親指を上げた。
「善処する」
「それはしない人の言い分なんですっ!!」
涙目で「忘れないでください!」と懇願しながら襟を掴んで揺さぶるユミル。
そして相変わらず反応が面白いユミルに、俺も笑いが止まらない。
一頻り笑った後、着けなければいけないと言う保護バッチを配り……ついに戦いの準備が完了した。
「さて……ごほんっ! ……それじゃあ何時でもいいぞ」
「……本当に全員と戦うのですか?」
「勿論。面倒いけど指導してやるよ。そうだな……俺にほんの少しでも傷を付けれたらお前らの勝ちにしようか」
「……っ、それはあまりにも私達を嘗めすぎてではないですか……!?」
「そうだそうだ!! アタシの挨拶代わりの拳を止めたくらいで調子に乗るなよ!!」
レイナは顔を歪めて怒りを押し殺すように、マーガレットは全く抑えること無く憤慨する。
ただ……どうやらそれは2人だけではないらしい。
「幾ら元勇者の先生とはいえ……ここまで煽られては容赦はしませんよ」
「ん、速攻終わらす」
「ん~~まぁ嘗められていい気分ではないよね~~」
「眠たいから直ぐに終わらせるよ、センセ」
皆が———1人動機が少し違う気もするが———敵意を剥き出しにして俺を見据える。
各々戦闘態勢に入り、空間がピリッと緊張感のある雰囲気に変わる。
俺はそんな後輩達の姿を眺めながら……。
「———少し遊んでやるとするかね」
軽く笑みを浮かべた。
———最初に仕掛けたのはレイナとユージン、メイの3人だった。
レイナが正面、ユージンとメイが両サイドである。
「ふっ———はっ!!」
短い音と共にレイナが弾丸の様に迫り、空中で身体を捻って白銀に煌めく剣閃を繰り出す。
白銀の剣閃は俺の上半身を斜めに切り裂こうとして……。
「残念でした」
「ッ!? くっ———」
片手で剣を受け止めると、剣を握ったまま一回転してレイナごとぶん投げる。
一瞬の事で反応できないレイナが、剣の遠心力に引っ張られる様に吹き飛ぶ———。
「———今」
「もーらいっ」
———その刹那の間に俺の懐に入ったメイが短剣を突き刺そうとし、ユージンが片方の剣で横薙ぎを放ってきた。
俺がレイナを投げ飛ばして難しい体勢になった……まさに完璧なタイミングである。
だが、まだまだ甘い。
「馬鹿正直に攻撃せずにフェイントも混ぜろよー」
「いだっ!?」
「いたい……」
剣を
鈍い音と共に、あまりの痛さからか剣も取らず2人が悶えた。
そんな2人を見ていると……。
「———【炎虎の雄叫び】ッッ!!」
新たにクルトが放った炎の虎が雄叫びをあげながら襲い掛かってくる。
しかしあまりにも全然威力が足りない。
「———消えろッ!!」
「ッ!? 馬鹿な……」
俺が魔力を威圧とともに前方に撃ち出すと、あっけなく炎の虎は掻き消えた。
しかし———炎虎が消えると後ろからマーガレットが全身に魔力を纏って突撃してきたではないか。
「隙あり———」
「はい、どんまい」
「———嘘だろぉおおおおお!?」
マーガレットの不意打ち気味の拳を受け流して背中を押す。
するとマーガレットは体勢を崩して地面を何回転も転がっていった。
「うーん……こんなもんか? 思ったより弱いな」
「「「「……ッ!?」」」」
俺の言葉に悔しがる4人だが、事実ボコボコなので何も言い返せない様だ。
そんな時、ずっと働いてなかったマハトが遂に動き出す。
「まぁまぁ見ててよセンセ。"汝らに神の祝福を———【力の祝福】【守りの祝福】【敏捷の祝福】"」
「僕も手伝おう———【付与:身体強化】」
マハトが唱えると同時に天から降ってきた光が4人を包み込む。
同時にクルトの魔法によって4人の身体が光った。
こうして復活した生徒達が即座に武器を構えて吼えた。
「「「「「「———戦いはこれからだ(です)ッ!!」」」」」」
「掛かってきな、後輩達」
俺に数多の剣閃と拳撃が迫り、炎や風、光の魔法が飛来した。
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