第4話 勇者とは。
———何百年振りくらいに名を名乗った気がする。
俺は、硬直した教室の中でそんなことを思う。
実際俺の下を訪ねてくる奴など無に等しかったし、来るとしても俺の仲間か遭難者だけだった。
流石に遭難者に名前は名乗らんわな。
俺が勇者だってバレたら面倒だったし。
「れ、レオン・ブレイブ・ソードレイ……確かそれって前代の勇者と同じ———」
「———ありえませんッ!!」
生徒の誰かの言葉に被せる様に金髪の少女———名前はレイナの言うらしい———が叫ぶ。
「彼の者は500年前の人間です。人間が500年生きるなど不可能です!!」
「だよな、俺も思う。でも生き残った、生き残ってしまった。仲間は俺を置いて皆死んだ。お前らは何百年も孤独に耐える覚悟があって勇者になろうとしているのか?」
「……っ!?」
俺の言葉に……誰も何も返さない。
当たり前だ。
子供にいきなり数百年も未来のことを訊いて答えれるわけなどない。
俺だって当時は魔王討伐が終われば普通の人生が歩めると信じていたのだから。
「———ん、先生が、勇者だって証拠……出して」
証拠を出せ、ね……。
何をすればいいかな……。
この沈黙が支配する空間を破る様に、先程まで興味無さそうに窓の外を見ていた無表情な少女の言葉に、俺は思案する。
「私は、まだ信じてない」
「俺も信じてないよ〜〜」
「私もです」
「無論僕も」
「アタシもだ!」
「…………」
少女と茶髪のチャラい少年———ユージンが同意したのを皮切りに、続々と賛成の声が上がった。
疑惑の視線を一身に受けた俺は、一応確認のためにユミルに尋ねる。
「ユミル、修復の魔法使える?」
「つ、使えますけど……ま、まさか……」
「そう、そのまさか」
俺は顔を引き攣らせるユミルを見ながら、一気に50パーセントの力を開放する。
瞬間、体内に眠っていた魔力が体外に放出されて俺の身を覆う。
その際の衝撃波は凄まじく、机どころか教室の屋根や壁までもが吹き飛び、教室内が爆発でも起きたかの様に悲惨な光景へと一瞬で変貌した。
「「「「「「……っ!?」」」」」」
しかし、生徒達は誰一人として飛ばされることは無かった。
生徒達の身体は俺は作った結界によって守られていたからだ。
「どうだ? 力は弱めたけど……これで多少は証明になったか?」
ちょっとやり過ぎ感あるけど……セーフだよな、きっと。
俺が内心ヒヤヒヤしていると、無表情だった顔を少し変化させた少女———メイがコクリと頷いた。
どうやら分かってくれた様子。
「よしよし、分かったならいいや。……じゃあ最初の授業は———お前らの先輩として、勇者とは何なのかを教えようか」
俺はユミルと共に直した教室内で教卓の前に立つと、3本指を立てる。
「えーまず、勇者に必要なものは———1に強さ、2に強さ、3に協調性だ」
「結局強さが1番大事じゃねぇかよ! さっきの話は何だったんだよ!!」
俺に殴り掛かってきた赤髪の少女が食って掛かる。
好戦的なこの少女の名前は……マーガレットと言うらしい。
「まぁまぁそんなに怒るなって、マーガレット。さっきのは覚悟の話で、今言ったのは勇者に求められる最低条件な。因みにマーガレット程度の強さなら……魔王軍の幹部の部下に瞬殺されるぞ、ほんとに」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
俺がなんてことない様に言うと、殆どの生徒が驚いた様に目を見張る。
中でもマーガレットは自分を持ち出された挙句、比較されたせいか……ワナワナと怒りに震えていた。
「……そ、そこまで言うなら、勇者様はさぞ強いんだろうなぁ?」
「うん。一応魔王倒したしな。仲間とだけど」
「はっ! なんだ、1人で勝てなかったのかよ。なら弱い———」
「———それは違うよ、マーガレット」
俺が否定しようとする前に否定の声が別の所から上がった。
声の方を向けば、あのエリート眼鏡を小さく幼くした様な風貌の少年……クルトが冷めた目でマーガレットを見ていた。
「何だよガリ勉野郎」
「五月蝿い脳筋女。無知すぎる君に教えるが……500年前の魔王はそもそも人間じゃ討伐不可能なんだよ」
「はあ? でも倒してるじゃねぇか」
クルトの言葉にマーガレットが意味不明とばかりに半目で睨む。
そんなマーガレットの様子に、クルトはやれやれと言わんばかりにため息を吐いて首を振る。
「だから、当時の世界最高峰の勇者様、聖女様、魔導王様、傭兵王様、暗殺王様の5人で戦ったんだろう? それに当時の5人の力と同レベルの人間はこの世界に居ないんだよ」
「……そうなのか?」
「まぁクルトの話に付け足すなら……あの時の魔王の正体が堕神だったくらいだな。今の世に俺等より強い奴が居ないのは知らん」
堕神とは、簡単に言えば神の位を剥奪された元神のことだ。
多少力が弱まっているとはいえ、化け物なのに変わりはない。
正直倒すのクソ面倒だったんだよな。
神聖魔法も効かんし物理攻撃も殆ど効かないとか言うクソ仕様だったし。
「ふーん……魔王が強かったのは分かった。で、何で協調性が必要なんだ?」
「……っ、君は本当に脳まで筋肉で出来ているのか……!? 連携して戦うには協調性が必要ってことに決まっているだろ!」
イマイチ分かっていない風のマーガレットに怒り心頭のクルト。
この2人は油と水みたいな関係なのかもしれない。
「クルト、落ち着け落ち着け。お前の説明は殆ど完璧だから。あと1つ挙げるなら……人類からの支援を得るためだな」
「支援……ですか?」
誰かがそう呟いたのを聞いて、頷く。
「そそ。幾ら勇者が強かろうと、嫌われてたら魔王と何ら変わりないだろ。それと単純に嫌われた後の貴族の嫌がらせがウザい」
貴族の嫌がらせ程面倒なモノはないからな。
どうしても酷いときは……キレた聖女が、相手が泣いて謝るまで永遠に神の教えを説くと言う地獄の仕返しで対抗していた。
今思えば可哀想な事をしたよ。
「ま、このくらいが勇者の最低条件だが……どうせ言葉だけじゃ理解し難いしつまらんだろ? ———ってことで、今から俺対全員で戦うぞ」
「「「「「「え?」」」」」」
「あ、それと1分後にグラウンド集合な? 遅れるなよ~!」
「「「「「「き、鬼畜……!!」」」」」」
愕然と呟く生徒達を横目に、俺はケラケラ笑いながら窓から飛び降りた。
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