第3話 元勇者と勇者候補生
「———はーい、皆んな注目して下さい!」
俺が学園に到着した1週間後。
階段状に長机の置かれ、皆の顔が一度に見れる1年S組の教室にて。
1年S組の元担任の助教をしていたらしいユミルが6人の生徒達に呼び掛ける。
しかしそれ以前から、殆どの生徒が俺を観察する様に見つめていた。
一部机に突っ伏したままの者や興味なさげに窓の外を見ている者もいるが。
……纏まりなさすぎこのクラス。
それかユミルが嘗められて……嘗められているな、完全に。
そんな中———白を基調とした制服を着崩した茶髪の男子生徒がヘラヘラ笑いながら間伸びした声で尋ねる。
「ねぇ〜ユミルちゃ〜ん、横の人は〜?」
「よくぞ訊いてくれました! 彼こそ———これからこのクラスの担任となるレオン先生ですっ!」
『バーン!』と効果音が付きそうな程のテンションで宣うユミルだったが……生徒達の反応は真反対であった。
その証拠に、先程質問した茶髪の男子生徒は顔に笑みを浮かべながらも疑惑の目を向けている。
それは他の生徒も同様であった。
何なら、何人かからは敵意すら感じる。
俺は地獄の様な雰囲気に変化した教室に取り敢えず視線を一度巡らせると……。
「ほー、えーうん、どうやら俺は要らないみたいだな。よし、帰るか」
帰る途中に美味しそうなご飯でも食べてからかえるかな。
「ちょ、ちょっと待って下さいっ!」
俺は回れ右して帰ろうとする……が、即座にユミルが慌てて止めて来た。
その表情は本気の焦りで染まっている。
「私をこの空気の中に1人で置いていく気ですか!? あんまりですよ!!」
「おいおい……落ち着けって。流石の俺でもほんとに帰るわけないだろ」
俺がユミルを宥めている最中。
「———貴方が、本当に新しい担任なのですか?」
突如———透き通った声が教室内に響く。
気になって声の方に目を向けると……そこには凛とした姿勢で手を挙げる金髪の少女の姿があった。
少女は俺を見据えて更に口を開く。
「質問に答えて下さい。貴方は本当に私達の担任なのですか?」
「一応そうだな」
俺が何となくそう答えると……何かの逆鱗に触れたのか少女は露骨に表情を歪める。
「……一応、ですか。はぁ……そんな良い加減な姿勢なら、やめておいた方が良いと思いますよ。この数ヶ月で私達の担任は既に5回変わりました。中には有名な教師も居ましたが……その人も辞めました。私達の才能を持て余して」
「えーそれは怖いな。まあ大丈夫大丈夫」
ピキッと少女のこめかみに青筋が浮く。
しかし、少女は中々の精神力の持ち主だったらしく、拳を強く握る事で怒りを抑え込んでいる様だった。
別に煽るつもりはなかったんだが……ブランク大き過ぎてコミュ力低下したか、俺。
哀れ過ぎるな、俺。
「———おい、お前!! 教師だからってあんま調子に乗んなッッ!!」
「ん?」
自身の対人能力の大幅な低下に危機を覚えていると、赤髪の少女が突如俺へと殴り掛かって来るではないか。
突然の事で驚くが……まあこれでも元勇者なので———。
「なっ!? 嘘だろ!?」
「おいおい、初対面でそれはないだろ」
———赤髪の少女の拳を指一本で止める。
これには流石に驚いたのか、教室の雰囲気が一変し、何人かの生徒は戦闘態勢に入ってすらいた。
そんな中でユミルはあわあわと慌てふためくだけと言う残念っぷり。
ここまでポンコツだと逆に尊敬するわ。
ただ———それよりもまず言っておかないといけないことがあるな。
「そこの君、赤色の」
「あ、アタシか?」
「そう、君だ。君に1つ質問があるんだが」
「な、何だよ……」
赤髪の少女が若干バツの悪そうな顔をしているが……あの調子だと、あの手を出す癖は治りそうにない。
……しゃーない、此処は面倒だけどビシッと言っといてやるか。
「お前ら……勇者を暴走族か何かと間違えてないか? 勇者程の力があると、殴り掛かったら風圧だけで相手死ぬぞ。俺だから良かったものを……ちゃんと気をつけるんだぞ」
「あ、ああ……」
…………あれ、何かお母さんみたいな言い方になったな。
まぁいいか。
「……貴方は何者なのですか……?」
若干自分がお母さん化していることを自覚していると、先程の金髪の少女が少し緊張した趣きで訊いてくる。
「え、このクラスの担任だか?」
「違います! 貴方の正体が何なのか訊いているんです!!」
「えー……まぁそうだな……。初めまして後輩達、とでも言っとこうかな」
「後輩……?」
困惑顔の生徒達に俺は大きく頷いた。
「そそ。俺はレオン。———レオン・ブレイブ・ソードレイだ。これからよろしく」
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