第4話 アネキのアパートではろくなことがありません。

 「ううぅぅぅぅ――」


「どーしたのあんた。さっきからうめいてばっかり。荷物くらいどうにかしようよ?それから、宿題とかもあるんじゃないの、中学生」


「しょうがないでしょだって僕超大量の重い本を標高差がエグい本棚に入れまくってそのあとその本棚のホコリ全部払ったんだよ…??もう宿題もあるけど明日以降にする…」

「なんだよ『標高差がエグい本棚』って…。宿題はどうなっても知らないけど」


阿室湊、ただいまアネキの住んでいるアパートのリビングのソファでのびているであります。仕事帰りであります。


「天井から床まで本棚で、一番上は脚立きゃたつに乗って背伸び、一番下はひざついてってしないといけないんだよ?もうめっちゃ腰痛い。うーん」

「あんた剣道部なんじゃないの」


そうだよ。でも関係ないよ…多分。


ていうか僕剣道めっちゃ弱いからなんも言わないで。


「まぁそんなことはどーだっていいけどさ。夜ご飯ばんめしどうする?」

「——何でもいい」


「あ、あんたそれ一番モテないやつらしいから気を付けな」

「——何が」

「『なんでもいい』っていうの」


どうでもいい。めちゃくちゃどうでもいい。スーパーウルトラどうでもいい。


「じゃあカレーにするよ」


あ、結構いいご飯じゃないか。


                ❀


 「できたよ~」

十分くらいして、キッチンからアネキの声が聞こえてきた。


「早いね」

「まぁな、」


「レトルトだし」


——レトルトなんかぁーいッ


——だから早かったんだなッ、チクショーヤラレタァーーッッッ!


「あっ、あんた今、『レトルトかよこの〇ソ野郎アネキめ』とか思ったでしょ」

「思ってません」


いや思ってましたすいませんでしたゆるしてください御姉様おねえさまッ!


                ❀


 「「ごちそうさまでしたー」」


アネキと同時に食後のあいさつをすると、


「ねぇ、あんた先風呂入る?後でいい?」

「——どっちでもいい」

「——あのね」


またモテないぞって言いたいんだろう。


「まあ、先入っていいよ」

「あ、そりゃどうも」


「その前に荷物整理してな?」

「ぐぐぐぐぐ」


その後僕は、痛い腰を伸ばしながら(お爺さんかよ…)与えられた部屋に旅行バッグを運び、いるものだけどうにか引っ張り出して、『荷物整理』を終え、瀕死状態で風呂に入り、そのままベッドに倒れこんで〇んだのだった(生きてます)。


               ❀


  ——キリキリキリキリキリキリ


「うわっなにこれめっちゃうるさい!」


次の日の朝。


ほぼ物置と化した一室アネキに与えられた部屋に鳴り響くベルの音。


その正体は。


「なんだ目覚まし時計か…。アネキが勝手に置いてくれやがったんだな」


ベルが二つついた、いわゆるよくイラストなんかでありがちなあのタイプ。しかも赤い。


「はぁ、これだからアネキは——」


と、愚痴りそうになった瞬間、


——ガチャっ


「ちょっと湊、あんた早く時計止めなさいよ。さっきからキリキリ言っててすっごいうるさいんだけど」

「いやこれアネキが勝手に置いてったんじゃないの⁈」


「まあそうだけど?」

「止め方知らないんだってば!」


——キリキリキリキリキリキリキリキリ


「アネキ止めてよ!」

「え、これうちあんま使ったことないから止め方知らない」


な、なんだとぅーっ。


どこまでいい加減なアネキなんだこのっ!


でもこういうのは大体叩けばどうにかなる!


「おりゃ!」


——バンッ


——リンッ


——ゴトッ


「あ」

「え」


赤いありがちな目覚まし時計は床に落ち、ベルの音と針の動きを同時に止めた。


気まずい空気が流れた時、僕の目に壁掛け時計が入ってきた。


「あ!」

「は?」


「やばいっていうか全然ダメじゃんっ」


「なにがよ?」


「何で目覚まし11時なんかにセットされてるの?!9時半に店行かなきゃいけないのにっ!」


「あ、オツカレ」


何がオツカレだ、何がっ!



アネキといるとろくなことがないっ、時間がないっ、店主が怖いっ!



僕はアパートのドアをぶち壊す勢いで、部屋を飛び出したのだった。










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