第3話 そんなこんなで来てしまったのであります。

 「ここ?ここだよね?」


目の前に立つ、よく言えばレトロ、悪く言えば古めかしいレンガ造りらしき建物。みおアネキいわく(アバウトすぎて事実信用ならないが)、たぶんここが僕の目的地、『古書幻想堂こしょげんそうどう』なはず…。


「見るからに本屋なことはわかるんだけど…ほんとにここかの自信が…」


——看板の文字がかすれていて、読めない。


「まあとにかく入ればいいっ間違ってたところでどうせ本屋だし!」


僕は謎の考えをもって自分を納得させ、その扉を引いたのだった。



 「く、暗っ…」

店内は、はっきり言って薄暗いを超えた暗さだった。きっちりひかれたカーテンのわずかな隙間から漏れる外の太陽光と、天井にポツンとつけられた裸電球一つ分だけの光しかなく、本の存在がなんとなくわかるレベルだ。


と、その時。


「誰だ」


突然どこかから声がした。ビビった。


「ええっと、阿室あむろみなとといいまして…お店の手伝いに…」


「ああ」


「ええっと、どこにいらっしゃるんでしょうか…」


「ここだ」


どこだ。


「回れ」


言われた通り店内をちょっと進んでみると、机があって(本が山積み過ぎてほぼ何もできなさそうだが)、その奥に店主らしき人が座っていた。


「あ…。はじめまして…」

「ああ」

「あの、失礼ですがお名前をまだ知らないんですが…」


神保町じんぼうちょう


うーん…、もうちょっと喋って話してくれないものか。この人は。さっきから単語しか喋ってない気が…。


「あ、そうなんですね…」


「君、こっち来い」


あ、単語増えた。


「は、はい…」


言われた通りそばへ向かうと、店主は緑色の布の塊をむんずと差し出してきた。


「これ、着ていい」

「あ、アリガトウゴザイマス」


何だこりゃ、と思いながらそれを広げると、どうやらエプロンのようで。なんとすごいことに、胸元にはちゃんと『古書幻想堂』の文字が銀色でプリントされている。で、その文字の少し下には、横並びにした文庫本二冊が入りそうなくらいのポケット一つ。


「あ、すごい。ちゃんとあるんですねこういうの」

「神田のやつだが」

「あぁ、今ブラジルにいる?」

「ブラジル?」

「あれ、違いましたっけ」

「私はベルギーと聞いた気がするぞ」


誰を信じたらいいのさ。てか神田さんがいる場所なんてあんま関係ない。


「えぇっとそれは別にいいんですけど、なんかやることは?」


「ない」


「エ」


「嘘だ。ここにあるのを本棚に入れて、こっちのはたきでホコリをはたいてくれ」


そう言って、神保町店主はそばにある本を指さした。










——その本たちは、僕の積み上げられていた。




——それも、







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