第2話 ミリョクテキな話が舞い込んできた。

 「ただいまぁ。あっ、まだこんな時間だラッキー」


今日は部活が一瞬で終わったので、いつもよりすごく早く帰ってくることができた。


と思っていたところで、奥から声が…


「やあみなと、おかえり~」

「え?」


共働きの親は部活があってもほとんどの場合まだいないのだが——。


「今日仕事は…ってはぁ⁉」

「いやそんな嫌そうな声出さないで?」


「なんでアネキいるの⁉」


「いやちょっと事情があって」


実のところ僕には年が離れたアネキ(とはいえとてもボーイッシュでガサツ、大学中退の)がいる。一応隣の市に住んでいることになっているが、ほとんどの場合日本のどこか、あるいは海外を転々としている。


…はずなのだが、


今、目の前にそのアネキが立っているというのはいったいなぜであるのか。


「どした?なんかやらかして捕まりそうになったから逃げてきたとか?」

「ひどいなぁ、うちの信用度ゼロじゃんよ…。そんなんじゃないって。ちょっとあんたに夏休み中についての提案があるんだ」


そう言って、僕の姉・阿室あむろみお——名前だけは女子っぽい——はニカッと笑った。


 「で、何提案って」


「あのね、夏休み中古本屋で手伝いしないかっていう話なんだけど」


「は?フルホンヤデテツダイ——古本屋、で…え、手伝い⁉」


言っていなかったが、僕はバリバリの本好きである。


「やれるもんならやりたいけど!場所どこ!てかアネキそんな知り合いどこで作ってきたわけ!」

「いやなんかまたうちの信用度ゼロ感出てた気がするんだけど…。まあいいや。この間ブラジル行った時にさ——」


・・・ぶらじる・・・遠っ・・・。


「たまたま神田かんださんっていう日本人のお兄さん、いやおじさん?がいてさ」


どこにいたんだろう。


「その人、古本屋の手伝いやってるらしくて、店主のほうは今一人で店やってるらしいんだけど」

「え。あのそれって僕がブラジルに行くっていう…?」

「いや店は日本にあるんだけどね。店主も年だし手伝いはしたいんだけど、その人の親せきが倒れて近くにいなきゃいけなくなっちゃったんだと。つまりブラジルに」


——どうやらブラジル行きにはならないようだ。でも親せきがブラジルって…


「えぇっと…その人、ハーフ?」

「いや生粋の日本人だよ」


違いました。


「あ…そうなの。まあいいや、続けて」

「うん。で、そこでうちがあんたの話を出したってわけよ」


「はぁ」


「そしたら、『そりゃちょうどいいですねぇ。ちょっと店主にも聞いてみますよ』っていうから、『じゃあ私も帰国したら弟に言ってみるんでお願いしまーす』ってね」


「はぁ」


「で、行くときここんちから毎日通うのは面倒だろうから、うちのアパートに泊まればいいよ。その方がちょっと近いし」


「はぁ」


「というわけだから、あんた行くのね?場所はあとで教えるから安心しな。そのおじさん——いやお兄さん?も優しそうだったし、店主もいい人らしいから。あ、あと交通費は——」


結構決められてるけどダイジョーブかな、と思ってたら…








「——うちが出すのもおとーさんたちに頼むのも面倒だから自分で払って」



——まったく、姉貴って奴は。

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