第4話「伝渉-densho-」
"あなたも、猫を虐待してた人ですね?"
突然のダイレクトメッセージに届いた不穏な言葉。
カイトは思わず眉間にしわを寄せながら、メッセージの送り主のアカウントを辿ってみた。
プロフィールには「伝渉会(でんしょうかい)メンバー」、「弱者に制裁を」という、いかにも怪しい文言が並べられていた。
胸がきゅっとなるほどの不快感を覚えていると、立て続けに同じ人物からメッセージが送られてきた。
"あなたは、化け猫事件の被害者の共通点を知っていますか?"
そのメッセージにカイトは固唾を飲んだ。
化け猫事件の被害者に共通点がある……。それを知ることで、事件の真相を解く鍵になるかもしれないと、不安と期待の中で返信することにした。
"被害者の共通点とは、なんですか?"
カイトはメッセージを送った後にどんな返事か来るのか気が気ではなく、間髪入れずに何度も送受信を確認した。
すると思いのほか早い段階で返信が送られてきた。
"直接会って、お話しませんか?"
アカウントを見る限り危険な香りのする人物ではあるが、この人物が事件のことを知っているという興味の方がカイトの中で強く沸いていた。
"では、どこでお会いしましょうか?"
そのメッセージを送った頃、ちょうどハルナがカイトに話しかけてきた。
「カイト、ある程度、化け猫の伝承について調べたわよ」
「ありがとう、どんな感じだった?」
ハルナは何冊かの本を読み漁り、それをすべてパソコンに書き起こしてくれていた。
ハルナが調べる限りでの化け猫の伝承はこうだ。
化け猫の起源となる説はいくつも存在するが、もっとも有力なのが江戸時代に存在していた旗本、根岸鎮衛による随筆によるものだ。
随筆では架空の物語として描かれているが、年老いた猫は人の言葉を話すと古来から言われているという。
また、当時から歌舞伎などの演目として「化猫遊女」や「鍋島騒動」が語り継がれている。
どちらにも共通するのが人間を襲うということだ。
化猫遊女では、遊郭にやってきた男を夜な夜な食べる。鍋島騒動では、殺された飼い主の恨みを晴らすために人を襲うとされていた。
「ねえ、カイト、この伝承と今回の事件、何か関係あると思う?」
「そうだな……」
今回の事件を整理してみると、わかっていることは次の通りだ。
"土砂降りの雨の日であること"
"被害者は背中に大きな爪痕を残していること"
"大きな黒い影を見ていること"
"猫の鳴き声を聞いていること"
そして……。
カイトの頭の中に先ほどのダイレクトメッセージの言葉が浮かんだ。
"被害者には共通点がある"
カイトはハルナがパソコンを打つ傍らで、スマホの通知を確認した。
すると、返信のメッセージが入っている。
"今日、このあと時間はありますか? 場所は新宿にあるカラオケ店でお願いします"
この後は特に予定がなかったため、カイトはダイレクトメッセージを送ってきた人物に会うことにした。
胸の中では大丈夫なのだろうかという不安。
しかし、この事件の真相に近づけるのであればという好奇心が、それらの負の感情を払拭していた。
「悪い、ハルナ。俺、このあと予定があるんだ。今日はありがとうな」
「え? あ、そうなの? うん、またね」
ハルナはいつもとは様子の違うカイトの表情に気付いてはいたが、あえて触れずにその場を別れることにした。
そしてカイトは指定されたカラオケ店に向かった。
新宿の繁華街のど真ん中で、人通りも非常に多い街並み。その一角にあるカラオケのビル。
一般の客がいつもと変わらず利用してしるような店だった。
"405号室でお待ちしております"
移動中にカラオケ店の個室番号が送られていた。
エレベーターで四階へ向かう中、カイトの鼓動はどんどん大きくなっていることがわかった。
405号室にたどり着くと、おそるおそるドアをノックする。
するとすぐに内側から扉が開き、そこにはひとりの男性の姿があった。
白髪交じりの髪の毛に、サングラス。綺麗なスーツをピシッと着こなした男性だった。
「どうぞ、お入りください」
カイトは言われるがままに個室に入ると、男は椅子に座りながら話し始めた。
「石本カイトさんですよね?」
カイトの心臓は大きく鼓動した。この男性がコンタクトをとってきたSNSでは一切本名は公開していないにも関わらず、本名を言ってきたからだ。
「そうですが、あなたは?」
「申し遅れました。わたしは今回の化け猫事件の最初の被害者でもあり、伝渉会のメンバー、近藤と申します」
"伝渉会"
この時カイトは知らなかったが、それは巷では有名な新興宗教の名前だった。
次回
第五話 伏讐-fukushu-
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