第27話 では、美しい楽曲を奏でに参りましょう。

 さて、虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 そんな言葉がこの異世界で通じるかどうかは分からないが、今さらどう足掻いた所でここは敵地の真っ只中である。


「いざという時は俺がその女支部長だかを人質に取ってやりますよ。まぁ姫にも秘策が何かあるんでしょうけどね…」


 そう言う琉大リュウタイの鉄笛には隠し針が仕込まれているらしい。彼は音曲を披露している時にあわよくば女支部長を襲う構えのようだ。


 一方、毒姫の方もこれまたどこに隠しているのかは分からないが、色々と秘策を準備しているのであろう。


「さあさあ、お出ましだぜ。」


 いち早く気配を察した琉三リュウサンが、お迎えの到着を皆にしらせる。


 俺も、とうとう聖騎士団を敵に回してまで新たな仲間と共にこの異世界を歩んでいく決心がついた。


 そして俺もまた女支部長達との戦いに備え、その背中に本当の父親の形見である大太刀を背負う。


「では、美しい楽曲を奏でに参りましょう。」


 毒姫はそう言うと、部屋の扉を開けた。宿の外ではおそらく昨日の男が待っているであろう。

 そして毒姫、琉大、琉三と順番に身支度が整った者から一人ずつ部屋を後にする。


 俺は最後に前の3人の背中を追いかけるように部屋を出た。


 成り行きとは言え、まだ出会って間もない自分の為に自ら死地へと乗り込んでくれる三人。そんな彼等に俺は最後まで「何故?」とは聞かなかった。


 たぶん聞いたって大した答えは返って来ない。


 もしそれを聞いたとしてもおそらく彼らはこう答えるだろう。「理由何て無い。ただの成り行きだ。」と。


 そう言えば、海辺の街道で毒姫を助けようとした時も単なる成り行きだったことを、俺はふと想い出した。

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