第24話 コスプレ道中

 いやはや。俺達の仮装コスプレもなかなか様になっている……


 って……俺だけ目が見えない設定ってなに?


 慣れない服でこんなものを付けてると、用を足すのも一苦労。食事だってままならないんですけど。


 ってなわけで、結局のところ俺の目を隠すタスキはあまりにも不便なため、目立たないように小さな穴を開けて少しだけ辺りを見渡せるようにした。




 まぁ、そんな細かい改善点はあったにせよ、俺達はこの日より常に音楽一座を演じる事となった。すると誰が決めた訳でも無いのに何故か皆んなが既に役に入っているのだ。それも本格的にである。


 はじめの頃は、気恥ずかしさもあって、俺などはついつい普段の口調で毒姫に話しかけてしまったりする。すると、横から琉大リュウタイがすぐに駆け寄ってきて、なんともゆっくりとした優雅な口調で「弟よ。話し方には気を付けなさい。」などと言ってくる。琉大リュウタイは完全に役になり切っている様子だ。しかも妙にさまになっている。


「すみません師兄。以後気をつけます。」


 俺もそれっぽくは言ってみるのだが、これがまたなんともさまにならないし恥ずかしい。


 全く、何でみんなこんなに乗り気なのだろうか……などと一人しらけた事を俺が思っていると、そんな俺の様子を見て、馬で荷車を引っ張っている琉三リュウサンが小さな声で俺に話しかけてきた。


「兄さん、恥ずかしがっちゃいけませんぜ。今のうちに練習をしておかないと、いざという時にすぐにボロが出ちまうんでさ。」


 なるほど、琉三の話を聞いて俺はそういう事かと納得する。一人でしらけていた自分がむちゃくちゃ恥ずかしい。そして何よりも琉三は見た目はゴツいけど気の回る出来る奴だった。



 さて。俺達も最初はぎこち無いなやり取りを続けていたものの、南都ナンバークまであと2日の道のりとなった頃には、お互いに音楽一座の役がすっかり板についていた。

 さすがにこの辺りまで来ると旧街道沿いでも商家や集落が目立ち始め、人通りも少しずつ多くなってきた。途中、五人ほどの騎士の一団とすれ違い、少々肝を冷やしたりもしたが、彼らはこちらを全く気にする様子もなく、勢いよく俺達の横を馬で駆け抜けていった。


 さて、ここからが逃亡劇の本番である。騎士の姿を目にした俺達は改めて気を引き締めなおした。



 まずは、まだ余裕のあるうちに今後の行程を確認しておかねばなるまい。そう思った俺は毒姫に弟子らしく丁寧な言葉で訪ねた。


「すみません、お師匠さま。我々はこれからいったいどちらに向かうのでございましょうか?」


 上品な中にも威厳のあるお師匠役は彼女のはまり役だ。


「まずは南都ナンバークにて情報収集を致します。そして琉小リュウショウと落ち合ってから街道をゆっくりと南へ向かう予定です。そこからはまだ決めていません。」


 先頭で馬に乗っている師匠は振り返ることなく、少し辺りを気にしながらそう言った。


 なるほど、南都から先は南に進む事以外はまだ未定ということか。どうするにしたって南都で収集する情報しだいって事のようだ。


「座長。それに騎士団の動向も探らなければなりません。もし宜しければ私が……」


 やさ男の琉大リュウタイはどうやら南都での情報収集の役目を買って出てくれるようだ。


「そうね……そちらの方は貴方に任せます。よろしく頼みますよ。」


「承知いたしました。」


 そして最後に琉三リュウサンも。


「なぁ、旦那。そろそろこの空っぽの荷物の中身を詰めておいたほうが良いんじゃないですかい?中身を改められたときにさすがに怪しいだろう?」


 しかし、そんなやり取りをしている最中、俺達音楽一座に突然緊張が走る。


 先程、俺達の横をすり抜けていった騎士の一人が馬を駆けて戻って来たのだ。そして遠くから「そこの一団待たれよ。」と声をかけて俺たち一行に停止を促した。


「おい、お前達は何者であるか?」


 騎士は馬をよせると、そう俺達に質問した。再び一座に緊張が走った。すぐさま一歩前に出た琉大が言葉を選びながら役通りのゆっくりとした口調で受け答えをする。


「これは騎士様。私どもは旅の一座で御座います。笛と琴を奏でては、諸国を旅して身を立てておりまする。」


「そうか、それでは何か証拠になるものを見せてはくれまいか?」


「それでは私の拙い笛を披露させていただきますが……いったい何かあったのでございますか?」


「いやいや、内輪のことだ気にするな。それよりも早く証拠を見せろ。」


 そう言われて琉大は言われるまま、腰の鉄笛を取り出すとおもむろにそれを口元にはこんで見事な調べを奏でて見せた。


「なかなかの腕前。お見事である。ところでお前達、道の途中で青い衣装を着た若い娘と大剣を背負った男の二人組を見なかったか?」


 おそらく、この男が俺たちを止めたのはこのこと聞く為だったようだ。怪しまれた訳ではなさそうなので、ここは一安心である。

 俺達は互いに目を見合わせてアイコンタクトをとった後、座長役の姫師匠が代表して男の質問に答えた。


「女のほうは分かりませぬが、男のほうは青岩港せいがんこうのそばの浜辺にて見かけたやもしれません。背中に大きな剣を背負っておりましたので覚えてございます。」


「それはいつの事だ?」


「おそらくは、十日ほど前のことかと……」


 騎士団は俺と毒姫との情報をつかんでいた。ここは彼女の言う通り、ほぼありのままを伝えたほうが得策だろう。


「あい分かった。ご協力感謝する。」


 男はそう言うと、馬のきびすを返して来た道を再び戻って行った。



「この様子ですと、騎士団は、かなり本腰を入れてクオン殿を探している可能性がありますな。」


 琉大は呟くようにそう言った。確かにそうだ。そしてこれからナンバークの都へ入れば騎士に出会う機会も増えてくる。


「すみません。私の為に危ない橋を渡らしてしまいますが、お師匠様方。どうか宜しくお願いします。」


 俺は、思わずそう言った。騎士団に追われる立場となってしまった今、彼らには本当に感謝しか無いのだ。


「気にすることは無い。我々も分かってやっていることだ。そなたも、先日は一緒に危ない橋を渡ってくれたではないか。」


 あくまでも師匠らしい口振りで毒姫はそう言ってくれた。嬉しい限りであるが、やはり先日の助太刀の件は彼女にそう言われると逆に恥ずかしい……。


「い、いやあれは……ちゃんと力になれたかどうか……」


「それは関係の無いこと。要は気持ちが嬉しかったと言う事だ。それよりも弟子よ。明日からは琴の稽古を始める。いざという時に一曲くらいは練習したほうが良いだろう。」


 確かに、姫師匠の言う通り音楽一座なのだから俺も何か出来るに越したことは無い。


 ……でも、あれ?


 今、姫師匠が気持ちが嬉しかったとかなんとか言ってなかったか?俺はもう一度聞き直したい気持ちに駆られたが……それをグッと我慢をした。

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