第16話 悪党三人組ようやく開放の糸口を見つける
「よし決めたわ。あなた達には毒消しを持って行ってもらうことにする。その鉄掌仙とか言うやつを相手にするのはなかなか面倒そうだもの。」
もちろん毒姫だって男の話しをすべて鵜呑みにした訳ではないだろう、でも、彼女だって三ッ
「あの若旦那のナニと私の命じゃぁ割りに合わないもの。」
そう言うと、彼女は自分を襲おうとしたスケベ男への復讐をきっぱりと諦めてしまった。どちらかと言えば計算高い性格の彼女。こういう時にこだわらないのは、さすがとしか言いようが無い。
結果。幸運を拾ったのは、少女に住血線虫丹を飲まされて苦痛のうちに殺される運命だった悪党三人組である、
もちろん彼らは二つ返事でこの提案に乗ってきた。
今まさに、無くしかけた命をもう一度拾い上げるチャンスが訪れたのだ。しかも恐怖の丸薬から開放された上に毒消しまで手に入るとは願ったり叶ったり。
「姫。それならばお安い御用です」と前のめりな返事は、明らかに、彼女の気が変わらないうちに話しを纏めようと言う気持ちが見え見えなのである。
しかし、間抜けな彼らでも、子供の使いの様にただ毒消しを持って帰るだけで事が解決しないのはわかっている。
「ただその……どうやって若旦に信用してもらえるかが問題でして。」
やさ男が、慎重に言葉を選びながら言う。
「そうね。どうしようか…」
「その、何か証拠となる物を貸していただけると…」
確かにもっともだ。持って帰った薬が毒消しなんて保証なんてどこにもないのである。
しかしそんな問題も、悪だくみの得意な毒姫にとってはさほど難しい問題ではない。やはり彼女はすぐに突破口を見つけ出してしまうのだ。
「あ、そうだ。いいこと思い付いた。この空き家から街道沿いに4里ほど戻った所に一軒の農家があるんだけど、そこのおばさんが私の着てた青い服を持ってるはずなの。だからそれを持っていったら良いわ。」
なるほど、特徴的な彼女の衣装は可哀そうな男の信頼を得るには十分な証拠となりそうだ。しかしながら、あのおばさんも痺れ薬を盛られたり悪党三人組が訪ねて来たりと、気の毒な限りである。
「よし。かしこまった。しかし何故その女があなたの服を持ってるんで?」
「逃げるのに目立つから交換して貰ったのよ。でもそんなことより、絶対に脅して取り上げたりしたら駄目よ。そうじゃないと私の隣にいるお兄さんに怒られるからね。」
って、いきなり話を振ってくるなよ…気の利いた事なんか言える訳ないんだから……。いたずらっぽくこっちを見て笑っているその表情が、少し憎たらしい。
「あ、あぁ。乱暴は駄目だ。」
仕方なく俺は付け焼き刃の低い声を作ってそう言った。
「つまりお金を払えばいいんでございましょ。」
察しの良いやさ男はすぐにそう言うのだが、ここで彼女はなんとも法外な金額を男に吹っ掛ける。
「だから…そうね、金貨20枚で買って上げて頂戴。ケチったら駄目よ。」
こういう所が彼女の抜け目のない所だろう。俺ならばつい正直に適性金額を提示してしまうだろう。まあ、多くて金貨5枚といったところじゃないだろうか。
それは恐らく、大金をわざと提示してマウントを取って交渉を有利に運んでいくスタイルに違いない。
そして彼女の狙い通りに、やさ男は少し焦った様子で彼女に詰めよった。
「あの、金貨20枚ってちょっと多すぎやしませんか?」
「ケチ臭いこと言わないでよ。どうせ結構な金額で雇われてるんでしょう。私に捕まって殺されかけた癖に。金貨20枚、あなたの命と引き換えじゃ安いもんでしょ。」
「わ、わかりました。おっしゃる通りに致します。」
彼女の機嫌を損ねればまた気が変わってしまうかも知れない。そう考えた男はより一層丁寧な言葉で受け答えをする。
しばらくは、少女とやさ男の間で話が進められていく。俺もここ2日の出来事で少女の機転がかなり利く事は分かっていた。しかし、やさ男の方も今は縛られて醜態は晒しているもののなかなか頭の回る奴だ。
正直、俺は話しの半分も理解出来ぬまま、二人の間で次々に話がまとめられていった。
「じゃぁ、そういう事でお願い。あとはあなたの口先にかかってるんだから上手くやってよ。」
さて、話がまとまったところで遂に開放されると安堵した男達だったが、彼女としてはそうは問屋が下ろさない。根が悪党なだけにこのままとんずらと言う事だってあり得る。ただ、そこは利口な少女だ。充分に手は考えている。それにもう一つ。大事な俺の話が残っているのだ。
次話
『まだ俺の話が残っている』
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