第15話 毒姫、見事にその手のひらを返す

 さて。やさ男が持っている情報では、今のところ毒姫を追っている人物は自分達3人で最後とのこと。しかしそれは今のところの話。もし、追手が全員戻らなかったとなれば、新たな追手が差し向けられるのは必然である。


 だから今の彼女が知りたい問題は、次の追手がいったいどれほど腕の立つ人物かと言うことだった。



 しかし、やさ男の情報では若旦那子飼いの武芸者の中に、どうにもやっかいな男が一人いるらしいのだ。


「俺も実際に会ったことはねぇ。でも噂ではやばいほど腕の立つ男がいるらしい。もしかしたらそいつが次に出てくるかもしれねぇ。」


「でも、あんた達だってアザ持ちで、そこそこの腕はあるのでしょう?」


「いや、噂を聞くかぎりじゃ俺達三人がかりでも勝負になるかはわからねぇ。」


「それは面倒そうね……いったいそいつはどんなやつなの?」


「自らを鉄掌仙てっしょうせんと名乗っている。だが自分で仙と名乗るバカはこの国にはいねぇ。噂では海の向こうの異国から渡って来たって言う話だ。俺たち邪教のものは、魔痕まこんの術を幼少期に授かって武術の鍛錬を行うんだが、やつには魔痕や聖痕などがねぇらしい。おそらくは俺たちが知らねぇ異国の武術を習得してるんだと思うぜ。」


「異国の武術ねぇ…いったいどんなものなのかしら。ねぇ。獲物は何を使うの?」


「俺が知っている限りでは掌法だけだな。しかし手から目に見えない力を出したり、指一本で相手の動きを封じる術を使う。」


「それって、例えば聖教の魔法みたいなものかしら?」


「あぁ、邪教にも魔法にはあるが、それとよく似てるかもしれねぇな。でも何かが違うような気もする。」


 さすがの毒姫もこの得体の知れない敵には、危機感を感じざるを得ない。この次にはやさ男が言うように新たな追手にその鉄掌仙とやらが出て来ないとも限らないのだ。


 そりゃ、男ならナニを使い物にならなくされればとことんまで追いかけて来るさ。もちろん温厚な俺だってそうするし、ましてや女好きの若旦那とくればなおさらだろう。


 駄目とわかれば切り札だって当然切ってくるはずである。結局のところ、男がナニを使えなくなることの重大さを彼女は良く分かっていないのだ。


 

 だが、いくら泣く子も黙る毒姫と言えども、得体のしれない相手に追い回される事が得策でないことはくらいは承知している。「そんなヤツほっとけば良いわ」とはさすがにならないらしい。


「う〜ん、やっかいな奴かも知れないわね……」


 強気の彼女が珍しく頭をなやませている。


「腕は三ッみつあざ以上と聞いた事があります。」


 三ッ痣といえば邪教各宗派の長老クラスに当たる手練てだれである。それ以上の実力となると太刀打ち出来るのはこの国に数えるほどしかいない。もちろんその中には騎士団の団長も入っているが、いかに毒をもっては無敵の毒姫と言えども、今度ばかりはかなり分が悪いのである。


 ならば、この毒姫は次にいったいどんな手を打つのだろうか。常に想像の斜め上を行く彼女の発想に、俺は危機感よりも先にそこに興味がわいた。


 しかし……。彼女が少し考えてから、ちょっとおどけた表情で言ったその言葉。


「ちなみに……毒消しを渡したら私を追いかけるの止めてくれるかしら?」


 まぁそれも彼女らしいと言えば彼女らしい。彼女は突然その手のひらをくるりと返してみせたのである。



次話


『悪党三人組ようやく開放の糸口を見つける』

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