第14話 決して男に使ってはいけない毒の話

「これであなた達が私に抵抗しても無駄だってこと、よくわかったでしょう。」


 やさ男は、ショックがそうとう大きかったのだろう。少女のダメ押しの言葉も今は耳には入っていない様子で、ついにうなだれたまま動かなくなってしまった。息巻いていた先程までの姿とは、もう全くの別人だ。

 俺達の命を奪おうとした悪党3人組は、うつむくばかりで何も答えることがでない。とうとう16、7の少女が大の男3人をすっかり黙らせてしまったのである。


 一方、住血線虫丹も緑翠荘も、はたまた毒姫についても全く知らなかった俺は、この時に少女が南方では邪教派に恐れられる人物だったことを知った。


 やっぱり凄い奴だったんだ……と感心する反面、俺はちょっと寂しくもあった。しかしまぁ、そんな俺のジェラシーなんか彼女は微塵も理解してくれ無いだろう。


「結局、貴方にも私の素性がバレちゃったわね。取り敢えず説明はまた後で説明するわ。でもその前に、まずはこいつらと話しをしなきゃ。」


 そう言うと彼女は他の男から兄貴と呼ばれているやさ男のうつむいた頭を鷲掴みにした。そして力ずくでグイッと男の顔を持ち上げた。少女の鋭い目で見据えられて、うなだれていた男はやっと口を開いた。


「あ、あの……全部答えれば線虫丹は見逃してもらえるんでょうか……」


「さぁね、あなたの態度と状況にもよるわね……」


 彼女の冷たい返事に男は必死に食い下がろうとする。さっきまでの男の意地や悪党の覚悟など全てをかなぐり捨てて、なんとも情けない姿だ。線虫丹恐るべしである。


「せ、せめて、せめて楽に死なせてください。お、お願いします。お願いします。」


 それはまさに懇願と言っていい。住血線虫丹の恐怖を眼の前にして冷静でいられる者など、この世には誰一人として居ないのかも知れない。


 しかしこれでは少々効果があり過ぎる。男達はただただ怯えるばかり。こうも冷静さを欠かれては話がなかなか前に進まない。


「わ、わかったから。殺すときは楽に死なせてあげるから。ちょっと落ち着いて。」


 彼女もさすがにそのことには気がついたようで、慌てて懐柔の姿勢をみせる。


「有難うございます。有難うございます。」


 男は、ただひたすら礼を言うばかり。彼女もこんな悪党に涙目で感謝されても全く嬉しく無いだろう。

 そして彼女は多少面倒臭さもあって、これ以上男を脅すことを止めた。


「もういいって…。全く、二枚目が見苦しい…。」


 彼女は、少しの間を置き男が落ち着くのを待ってから最初の質問をした。


「それじゃ、まずは私の追手はあと何人くらいいるの?正直に答えなさいよ。」


「わ、わかった…。取り敢えず追手は今のとこあんたが殺った5人と俺達の3人だけだ。あんた、あの若旦那に毒を飲ませたんだろ?いったいどんな毒かは知らねぇが、毒消しが手に入らなきゃまた人数は増えると思ったほうがいい……。」


 すこしは落ち着いてきた男の口調が少し悪党っぽく戻ってきたのは愛嬌といったところか。

 

 方や毒姫はというと、恐らく毒を盛った相手のことを思い出したのだろう。眉間にシワを寄せながら嫌悪感まる出しで吐き捨てる様に言う。



 しかしこの時の彼女の言葉が、俺を含めた男子4人を震撼させるのである。


「フン。あのエロ男!本当にしつこいわね。たかだかナニが使えなくなったぐらいで。」


 そう。毒姫の口から何やら耳を疑う様な言葉が聞こえたのだ……。


「…⁉」


「……!?」


 だが、一瞬にして俺を含む男達の表情が氷ついたことに彼女は気がついてはいない。


「自業自得よ。あいつもしばらくは女に悪さもできないでしょうね。ホントいい気味。」


「!!」


 俺は一瞬耳を疑ったりもしたが、明らかに聞き間違いなどではない。。


「お、おい。ナニってもしかして男の下半身にあるナニか?それを使えなくしたって?なんてえげつないことをしやがるんだ。」


 縛られていた長身の男がつい口を滑らせた。もちろん俺だって同じ様に思ったさ。でも流石に口に出して言っては駄目だ。

 

「は?今、誰がえげつないって言ったの?もしかしてあなた達は自分の立場がわかてないのかしら……。私はあいつに眠り薬を飲まされて乱暴されそうになったのよ。殺されなかっただけでも有り難いと思ってほしいわよ。」


「お、おっしゃる通りで。」


 口を滑らした男は、キッと少女に睨みつけられて、すぐにその首を引っ込める。


「また、大男が小さくなっちゃった…」


彼女は鬱陶しそうに、そう吐き捨てた。


 そんなやり取りを横で見ていた俺は尋問の最中だと言うのに、たまらずに吹き出してしまった。


 だって、彼女が追われていた理由がそんな事だったとは思いもよらなかったし、いかにも彼女らしい理由じゃないか。


「えっ?今笑うところ?」


 そう言った彼女は、頬の緩んだ俺の様子を横から不思議そうに見ていた。


 しかしながら、話が本題の新たな追手の情報に移ると、笑ってもいられない情報が男の口から出てくるのである。



次話


『毒姫、見事にその手のひらを返す』

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