第11話 痺れ薬が切れるまで

 しかし毒を盛られた酒を拾い飲みするなどなんと間抜けな三人組であろうか。


「まさか……さ、酒に毒が……」


 などと、男がいまさら気がついたところでもう遅い。彼女の戦闘スタイル(毒)の腕は超一流なのだ。



 そして時を置かずして、一緒に酒盛りをしてしまった他の二人も長身の男に続いて椅子から地面に崩れ落ちた。


 まったく気軽に毒を使いすぎなんだよなあ……。


 俺もさすがに3度目になると驚きはしなかった。


 まぁ毒なんてものは大抵悪役が使う卑怯な手段と思いがちだが、こちらの世界では至極ポピュラーな戦闘スタイルなのかもしれない……。


 そう納得しようとしたものの……いや、はたしてそうなのか?


 俺は、またしても彼女の毒のおかげで窮地を脱することが出来たのだが、どうも納得のいかない事実が眼の前につきつけられているような気がしてならない。


 一方そんな俺のの複雑な心境など彼女はおかまいなしで早く行きなさいと言わんばかりに俺の尻を引っ叩いて裏口から家の中へと入っていく。


「ほら、早くこの縄でこいつらを縛り上げて。」


 少女は中に入るとまず土間の壁に引っ掛けてあった縄を俺に放り投げた。

 3人の男達はいずれも口から泡を吹きろれつの回らない様子で悪態をついている。俺は一人ずつ見動きが取れないようにしっかりと縄で縛り上げていくが、3人目はいつの間にか意識も無く白目をむいていた。


「おい。これって本当に痺れ薬なんだよな。こいつ白目むいてるぞ。」


「え?あれ?ちょっと分量間違えたかな……」


 おいおい、怖え〜な……。


 俺は敵ながら下に転がっている男達が少し気の毒に思えてきた。ほんと、お前達はこんな悪女の相手をさせられて運が悪かったよ。


「まぁ大丈夫よ死にはしないって。ほら、このでくの坊なんかそう簡単に死ななそうな顔してるでしょ。こいつらにはこれから色々と聞かなきゃならないんだから死んでもらっちゃ困るの。クオンだってそうでしょ。」


「ああ、そうだった。」


 三人を縛り上げた俺は、念の為にそれぞれを別々の柱にくくりつけた。長身の男は体が大きいためか幾分元気が残っており、しきりになにかを喚いている。


「くそっ……卑…女め…痺れ……なんか…いっ…い…どうやって…」


 まぁいくら悪態をついたところで、こいつの生死は俺たちが握っているのだ。

 俺は「まぁせいぜい言わしておけ」と、何処かで聞いたような台詞を言ってみたかっのたが、どうにか思いとどまる。


 さすがにそこまで悪役キャラにはなりきれない。


 ところが少女はそうは思っていなかったようだ。おもむろに悪態をつく男の前に立ったと思うと、そいつの体を思いっきり蹴り上げる。


「うるさいわね!はっきりと喋りなさいよ!」


 うわっ。やべぇ…こいつやべぇやつだよ。先程のしおらしい姿は何処へやら、この娘は敵と見るや恐ろしく容赦がない。

 再び蹴りを入れようとする少女を、俺は見かねて制止する。


「おい、乱暴はよせ。」


「は?こいつら、私達の事を殺そうとしていたのよ。どっちにしろ薬が切れて口が聞けるようになったら必要な事だけ聞いて殺すんだから。」


「わかったって、でも俺は君が残酷なことをする姿をあまり見たくないんだよ。それに、ほら、この男が言うように君がどうやって毒を飲ませたのか俺も興味があるし。な、お姫様落ち着いて……」


「何よ…私が取り乱してるみたいに…」


 そう言いながらも、俺の言葉に少女はしぶしぶ蹴るのを止めた。俺は、彼女の気を散らそうと、必死になって奴らにどうやって毒入りの酒を飲ませたのかを聞く。

 最初は気乗りしなさそうに話していた彼女だが、話が毒の件になると彼女はまたたく間に得意気な表情に変わり、嬉々として今回の毒について語りだした。

 こういう分かりやすいところはかわいいんだがなぁ、と俺は思うのだが…おそらくはギャップ萌え?なのだろう。話している事は毒の盛り方なんだから。


「こいつらがここに来るなんて知ってるわけないじゃない。たまたまに決まってるでしょ。今日は、ゆっくり寝たかったし本当にこんな奴らには会いたくなかったの。」


「でも、なんでこんなに都合よく痺れ薬の入った酒があったのかが俺は分からないんだけど。」


 謎解きゲームというわけではないが、痺れ薬は少女が入れたとしても、やはり何故この空き家に都合よく酒があったのかは気になるところではあった。


「気がついてなかった?私がおばさんと、この地味な服を交換してきたきついでにお酒も一緒にもらってきたのよ。毒を使うのは手品と同じよ。自分の手もとにどれだけの仕掛けがあるかが重要なの。まぁ、お酒は手に入れといて損はないわね。好きな奴は置いておくだけで勝手に飲んでくれるんだもん。今回みたいにね。」


「それじゃ、裏口に隠れる時に君がなかなか来なかったのは、その毒入りの酒を準備してたってわけか。」


「そうよ。もたもたしてるとでも思った?」


「しかし上手いこと飲んでくれたよなぁ、ほんと助かったよ。」


「まぁ飲んでくれたのは偶然だけど、適当に置いたって飲んでくれないわよ。これみよがしに空き家の真ん中にお酒があったら絶対怪しいじゃない。少し探して見つかるぐらいがいいの。要は自分で見つけたと思わせることが重要なの。」


「はぁ〜なるほどなぁ」


 俺は、ただただ少女の毒に対する造詣の深さに関心するばかりだった。まさか服を着替えた時にまで話が遡るとは思ってもいなかった。

 もしやこいつの行動にはすべて意味があるのでは?もしかするとさっき男を蹴り上げたことも後々意味が出てくるのかもしれない。なんて考えが浮かんでくる。


 やはりこの娘は只者ではない。


 そして、その関心しっぱなしの俺を少女は満足気に眺めている。


「まぁ、これは毒の扱い方の基本中の基本だからあんたに話してもいいけど、まだまだ奥は深いのよ。この先は弟子になったら教えてあげるわね。」



 その後、男達の痺れ薬が切れるまで俺達はしばらく仮眠を取ることにした。しかし分量を間違えた痺れ薬はいつ切れるのだろうか…


 結局、俺達は次の日の昼まで待つことになった。



 次話


『師弟関係』

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