第6話 そうね〜あなたは知らないほうが良いかも
俺と彼女は取り敢えず直ぐにその場から立ち去ることに決めた。
5人も人を殺しておいてダラダラ現場に留まる犯人もいないだろう。
いや、これは正当防衛なんだから現場から逃げるというのも腹立たしいが、この顛末をどの様に説明すればいいのだろうか…。さすがに急いでこの場から離れないと面倒なことになりかねない。
やっぱりここは逃げるべきだ。
俺達はまず旧街道に出ると、海とは逆の内陸方向に進んで行った。
俺にとって目的地とは方向が逆になってしまうが、彼女が言うには新たな追手が差し向けられる可能性があるらしいのだ。
俺はしかたなく海沿いの旧街道を進むのを諦めて取り敢えずアオザイの少女と共に南都ナンバークまで戻る事に決めた。
少女は馬上で、そして馬を失った俺は彼女の馬を引いて徒歩で街道を行く。
ただ、予想外だったのは、着飾った少女と泥だらけの青年の二人組が想像以上に目立ってしまう事だった。
新しい街道が出来た今、使いにくい旧街道を利用する旅人は極端に減っている、しかしその数少ない旅人全員がすれ違う俺達の姿を奇異の目で見てくるのだ。
「さっきの人も私達の事を変な目で見てた。」
「やっぱり俺たちは目立つんだよ。全身泥だらけの俺に、超高級な着物を着たお嬢様のペアだからな。」
「そうね…。でも盲点だったわ。」
「うん。せめてさっきの川で、俺の泥だけでも落としておくんだったよ。」
そう言いながら俺は生乾きの泥をパンパンと叩いて見せた。わざとホコリが彼女の回りを舞うようにふざける俺を彼女は馬上から煩わしそうに見下ろした。
そして呆れたように言い放つ。
「いや、そうじゃなくて、あなたが弱いって事よ。さっきの5人は私一人でもなんとかなる予定だったの。あなたが騎士様の格好なんしてるもんだから少しは役に立つかと思ったのに、戦いはズブの素人なんだもの。あなた本当に騎士様なの?」
無駄に嫌味の多い女だが、そう言われると、俺も立つ瀬がない。
でも、仕方なくないか?あんな手練が5人も揃ってたかが女の子一人を追いかけているなんて普通は思わないだろ?
それに…
こんな可愛らしい少女に毒ガス攻撃のスキルがあったなんて絶対わかりっこない。
まぁ正直、俺だって知ってれば助けなかったかも知れない…
「でも仕方ないだろう。女の子が襲われてるって思ったら身体が勝手に動いちゃったんだからさ。」
「はいはい、やっぱりあなたは騎士様だわ…」
まだ半人前の騎士の俺に嫌味タラタラの高飛車少女。
俺達は田園の広がるのどかな街道を、ギクシャクとした会話を続けながら二人歩いていく。
「でも、あの最初の一撃は凄かったわよ。一瞬全員倒せるかと思ったもの。」
「ああ、あれは俺がまだ子供の頃、知らないおっさんが偶然教えてくれた技でさ、俺に使える唯一の技。俺も今回初めて使ったけど正直あんなに凄いとは思って無かった。知らないおっさんに感謝だな。」
「でも私、あの技を何処かで見たことあるような気がするのよね…」
「普通に有名な技なんじゃないか?鍛錬方法はけっこう簡単だったし。」
「普通かしら?そうでも無いような気もするけど…」
見知らぬ子供に究極の技など教えてくれる訳がない。よくある初歩的な技を可哀想な子供に教えてくれたのさ。俺はそう適当に考えていたのだが…違ったのか?
まぁ、結局俺が弱いのには変わりはない…そして、彼女はそんな俺とは比べ物にならないくらい強いのだ。
「それより、君の強さはいったいなんなの?あの馬の扱いから吹き矢の技まで…あと毒もだけど…俺では絶対に君には太刀打ち出来ないって戦わなくても分かるよ。」
「あら。ちゃんと分かってるじゃない。何だったら私の事を師匠と呼んでもいいわよ。」
「それはちょっと…困る…」
「本当にいいの?弟子になれば一つぐらい何か教えてあげようかと思ったのに…」
少しおだてたからなのか、得意満面な少女に「だって、いくら強いって言っても、吹き矢や毒の使い方なんて…教わったって格好悪いじゃん。」とはさすがに言えない。
しかし、彼女の機嫌が良くなったところで俺はどうしても彼女に聞いておきたい事が一つあった。
「ところで、君っていったい何者なの?」
実際、彼女が只者では無いことはよく分かっている。武芸の達人を5人も差し向けられる少女はいったい何者なのだろうか。
しかし少女は、なぜか笑いながらこう言った。
「私?そうね~お坊っちゃまの貴方は知らないほうが良いかも。だから教えてあげない。」
次話
『スナック感覚で毒を使うな』
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