第27話 「副会長として果たすべき役割」
「一緒に学校を変えようよ、清美」
その第一声が、稲目清美を――あたしを変えてくれた。あの日、理不尽な理由で教師に叱られたあたしを庇ってくれた島崎楓は、あたしにとって新たな一歩を踏み出す勇気をくれた人。彼女がいたから、今のあたしがある。
「うん」
三年経った今でも、気持ちは変わらない。あたし、カエデのためだったらなんでもやれる。
……塚本くんだってそうだった。最初は素性の分からない男がカエデをたぶらかそうとしているのかと思ったけど、全然違う。むしろ、あたしよりも純情で長い間彼女を想い、誰よりも彼女を慕っていた。
ようやく分かったよ、カエデがどうして学校を変えたかったのか。
全て塚本くんのためなんだよね? 分かるよ、あたしもカエデのためだもん。カエデの願いを成就させたくて戦ってきたから。
そして、これからも。貴女と一緒に戦うよ、カエデ。
「親衛隊、集合!」
武蔵講堂前に群がる生徒たちに向けて、あたしは声を張り上げていた。胸に薔薇の紋章を付ける紳士淑女は、野蛮な相手にも屈しない忠誠心を持った戦士だ。
「「「お呼びですか、隊長!!」」」
こんな時でも揺るがない貴方たちの声に勇気を与えられる。ありがとう、ローゼン。ありがとう、カエデ。
……今度はあたしたちの番だ。この生徒会を根底から覆そうとしたやつらに反転攻勢を仕掛ける時が来た。
「現在、島崎楓による生徒会は崩壊の危機を迎えている。この状況を覆すためには、生徒会長に忠誠を誓った貴方たちの力が必要だ。覚悟はあるか!」
「「「覚悟はとうの昔にできています!」」」
完璧な返答。この場に新風を巻き起こす。
ローゼンの誰もが彼女に対する想いを曲げていない。
……これよ、これを待っていたのよ。
「これより、武蔵講堂に向けて、生徒会長に対する忠誠心を示しなさい。今出せる全力の声で、とにかく愛を叫べ!!」
誰かがお手本にならなきゃ意味がない。あたしが講堂に歩み始めると、空気を読んだ生徒たちが一本道を作り出してくれる。まるでこの時を望んでいたように、誰もが講堂を向いていた。
「清美さん」
隣からヨシくんの声がする。
「付き合わせちゃってごめんね」
「いいえ。同志ですから。それに――いいえ、貴女の力になりたかったので」
こういう状況でも冷静でいられる貴方が羨ましい。
そして、その貴女の力になりたかったという一言……嬉しいよ。私もヨシくんに――
「ちょっと、なんでいい雰囲気になってるの? 無視しないでよぉ!」
……ごめん未礼、完全に忘れてた。彼女がぷんすか怒るものだから、なにを言おうとしたか忘れちゃった。まあいい、それよりも大切なことが目の前にあるのだから。
今出せる全力の声。きっと、それだけでは彼女に想いを伝えられない。
でも、全部伝えられなくたっていい。あたしはただ、貴女のおかげで前に進めたことを聞いてもらいたいの。
大きく息を吸って、空を見上げる。燦々とあたしたちを照らす太陽は、夏の梅雨の終わりを告げていた。
「――カエデ!!」
それはまるで、あたしたちの時代が始まったことを示すような、最高の絶叫日和だった。
「あたしを救ってくれてありがとおぉ!!」
……届いたかどうかは分からない。分からないから、何度も何度も続ける。
「今のあたしがあるのは、全部貴女のおかげだから!!」
「自信を持って、その想いをぶつけなさい!!」
あたしの圧倒的な絶叫を前に、親衛隊のメンバーだけでなくその場にいる全生徒が唖然としていた。だが、すぐに動いたのは親衛隊・ローゼン。
「カエデ様ぁ!! 大好きですう!!」
「負けないでくれ、カエデちゃん!!」
そうだ、もっと叫べ。もっと注目を集めろ。それでいい、そうだ。
講堂内から顔を覗かせる人が増えていく。このままこちらに気を逸らしていて。
ナリト派と戦っているのはあたしたちだけじゃないんだ。
――塚本くん、後は頼んだよ!
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