第26話 「文藝部と生徒会が一つになる時」
生徒総会当日、周囲にどけどけと騒ぎながらある部屋を目指す一行の姿あった。
扇子を振りかざしながら、強引に通路を開こうと躍起になっている一条彩姫。
そんな女王面をする彩姫に対して、ひたすら持論を展開する大庭伴弘。
二人の様子を大笑いしながら眺めている笹川悟。
その二人の光景を見ながら呆れた様子を見せる酒井千晴。
そして……同じく呆れて大きな溜め息を漏らす俺――塚本翔太。
大きな争いが発生する静けさを打ち破った俺たちは、遂に目的の場所にまで辿り着いた。
……生徒会室である。
「邪魔するぞっ!」
「話を聞け、女王気取りのアホだぬき!」
「なぬっ、誰がアホだぬきじゃ!? わらわは学年主席にして、国に代々仕えし一条家の嫡子ぞ。調子に乗るのも大概に」
「調子に乗っているのは二人でしょう。静かにしてください!」
俺の一喝が効いたのか、二人はすぐに言い合いを止めて生徒会室に顔を向けた。
役員はほとんど揃っているようだが……。
「うぅ~、塚本くん怖いよぉ!」
「姉上っ……に、翔太君……文藝部の皆さん勢揃いで、どうされましたか」
一条先輩の顔を見て戸惑う素振りを見せるが、来客の対応はしっかりやってくれる良隆だ。
「カエデに用がある。いないのか?」
「いいえ。まだ来てないよ。会わなかった?」
俺の問いに清美が淡々と答える。悟が俺の肩を叩いてきたのは、手はず通り話せという合図だった。
「講堂は既にナリト派で満たされている。もし、カエデが一人でそんなところに向かっていたら……」
その言葉を聞いた萌夏は、両目を大きく見開いて眉間にしわを寄せたかと思うと、直ちに生徒会室を出ようと出口に駆け寄る。そうはさせまいと、悟が彼女に近づいて動きを止めた。
「……どいて、悟」
「ダメだ。翔太の話を最後まで聞け」
「……塚本翔太、貴方は……一体なにがしたいの、です。会長の邪魔ばかりして……」
萌夏は声を震わせながら俺に鋭い牙を向ける。そこにいるのは、
「……俺も君も、カエデに対する想いは同じなんだよ。だから、最後まで聞いてくれ」
まあ、俺の方が気持ちは大きいんですけどね。……そんなことを言ったら、彼女の怒りがエスカレートしてしまうから言わないけど。
なだめるような口調で彼女に告げるも、首を大きく横に振って否定してくる。
「……だめ。だめ。このままじゃ会長の理想が崩壊する……生徒会長として、谷千代学園の生徒として……いられなくなる」
今にも狂い出してしまいそうな萌夏は、俺を殴りたいのか、手を必死に伸ばしてくる。悟のおかげで安全は保たれているが……固唾を呑んで出方をうかがう。
すると、悟がその場でしゃがみ、彼女を力いっぱい抱きしめた。状況の分からない生徒会役員は皆驚きの声をあげていたが……俺たち文藝部は全てを知っている。
「萌夏、俺を見ろ」
萌夏はなにが起きたのか分からず、放心したように表情を動かさなかった。
「ずっと前から、俺はお前のことが好きだった。分からないかもしれないけど、俺がお前の傍にいたのは、萌夏を危険から守るためだったんだよ。お前が会長のことが大切なのは分かる。だが、せめてお前を愛する人間がいることを知ってほしかった」
きっと不安な気持ちでいっぱいだったのだろう、髪で隠れた右目から涙がこぼれ落ちる。次第に左目からも、一つ、二つ、三つ……。
「今のお前は会長を失う恐怖に支配されている。会長が自分を見てくれなくなるのが怖くて仕方ない……。だが、安心しろ。この場にいる全員が萌夏の味方であり、会長の味方なんだから」
悟の心がこもった言葉が彼女に安心感を与えたのだろうか。それとも、悟の想いを受け入れたのだろうか。……いずれにせよ、萌夏は悟の背中に手を回して謝っていた。
「……うっ、ごめんなさい……ボク…………」
「いいよ。皆許してくれるさ。だろ?」
ちょっと俺、悟に嫉妬しそうだよ。誰よりも他人に興味がないと思っていた人間が、ここまで他人のためにアツい男だったんて。もう、聞いてない! 参考書にも書いてませんけど!
二人を除く全員が頷いてみせた。みんな萌夏を許し、受け入れてくれる。
「……ありがとう」
一件落着となったところで、一条先輩に扇子で肩を突かれる。そうだ、本来の目的を忘れてはいけない。悟は想いを告げることができた。ここからは、俺が想いを告げる番なんだ。
「折り入って生徒会にお願いがある。どうか賛成してもらえないだろうか」
文藝部四人で頭を下げて誠意を示す。
全てはカエデを救うため。そして、俺が彼女に振り向いてもらうためだ。
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