2023-12-22ココロカガミ
十二月二十二日
「クリスマスが近いからね、クリスマス市に行きましょう」
フィ姉さんに連れられて、広場に露店の立ち並ぶ蚤の市に連れてこられた。この世界にもクリスマスという概念があるらしく、何かしらの何かを祝っているらしい。何を祝っているのかは正直誰もわかっていないらしい。
物をところ狭しと置いている露店が多い中で、ほとんど物のない空間を見つけた。そこでは黒いローブを被った人が一枚の鏡を磨きながら座っている。
ローブの人物は呼び込みの声も出さずに、ただ座っている。磨いている鏡の他に、床に敷かれた布の上に鏡が一枚置いてあり、どうやらそれが商品のようだった。
「ああ、ココロカガミだね。買ってみるかい?」
俺がフィ姉さんを呼び止めると、振り返って頭に手を置いてくる。
「少年は見る目があるねぇ。今日は、これを買って終わりにしようか」
そして、説明もなく店主に歩み寄って、値札に書いてあるよりも随分と高い金額を手渡した。店主は無感動に鏡をフィ姉さんに押し付ける。
そのまま、鏡は俺の手元にわたる。覗き込んでみたが、特に変わったところのない普通の鏡だった。装飾も単純で、それほど価値があるとは思えない。
ただ、店主の様子に特別さを感じたのは確かだった。
荷物を背負って山を登りながら、フィ姉さんに鏡について聞く。少し上機嫌なフィ姉さんは快く答えてくれた。
「ココロカガミは、沢山磨かれた鏡のことをいうんだ。表面を見てごらん。ずいぶんと綺麗でしょう。でもね、ココロカガミの意味があるところは、その鏡じゃないんだ。それは、結局のところただの鏡だよ」
「じゃあ、何が大切なんですか?」
「ココロカガミを作った人さ。あの、座っていた店主だね。鏡を磨く工程が、自分の心を磨く過程と似ていると言われている。鏡は、磨けば磨くほど綺麗になる。でも、ある程度以上磨きすぎると、一転して真っ黒に濁る瞬間があるというんだ。そうなった鏡を、もう一度綺麗になるまで磨きなおしたのがココロカガミだ。それには一か月かかるか、一年かかるかは分からない。でも、長い時間磨いたには違いないと思うよ」
「そんなに長く……」
「だからあの人は長い修行を終えてあそこに座っていたことになる。私はああいう人にこそ敬意を示したいね」
「そんなに大切な物をどうして売ってしまうんですか?」
「売ったほうが良いのさ。だって、もう一度鏡を磨けるから」
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