2023-12-23祈るって何に
十二月二十三日
クリスマスが近いというのでフィ姉さんが浮かれている。木の実や枝を拾って接着してリースを作り、玄関に飾ったり、家の前に生えている木の一本に狙いを定めて集中的に装飾を施したりしている。
今までフィ姉さんが生きてきた中で、年中行事はただ過ぎ去るものだったそうだ。けれど今は、俺という楽しませる対象が見つかったことで、行事を楽しむことに熱が入っている。
今や家の周囲はイルミネーションが巻き付いて、巨大な蜘蛛の巣のようだ。
実際に、糸から光を発して光に寄せられる虫を捕える夜光グモというのは存在するらしい。
「この行事、結局のところ何なんですか? 俺はこの世界のことがよく分かっていないから、クリスマスが何か分からなくて不安なんですけど」
「それがね、たぶん誰も本当のところはわかっていないと思うよ。私もよくわかんなくなっちゃった」
フィ姉さんが首をかしげる。人間よりはるか長くを生きるエルフが知らないことなどあっていいのだろうか。
「クリスマスの成立って不思議でね。わからないっていうのは、今の人間が何のつもりで祝っているのかわからないって意味なんだ」
飾りつけ作業を一通り終えたフィ姉さんがココアを飲みながら手のひらを肩の高さで水平にする。
「初めはね、多分だけど冬至の祝いだったと思う。ほら、一番昼が短くなる日。それが、なんだかその時信じられていた神様を祝う日に移り変わったの」
「どこかで世界樹ユグドラシルの伝承が混ざって、木に装飾を施すようになった。最初は装飾に意味があったんだけど形骸化しちゃったね」
「ある時の王様の誕生日が近かったせいで、その王様を祝う日にもなった。これのせいで、昔とは祝う日が一日だけ違うんだ」
「イルミネーションは、昔は星空の模倣として飾っていた。偉大な預言者が現れるときの星空の様子を示した書物っていうのが流行った時期があってね。預言者が早く来るように地上にその星空を再現しようってことだったの」
「それで、結構最近なんだけど、新興の宗教さんがクリスマスの日に活動していてね。最近はそれを信じている人も多いから、その関連の宗教儀式もよく見られるかな」
フィ姉さんは勢いよくまくしたてた後、ココアを一口すする。
「結局ね、みんな雰囲気だけでクリスマスを楽しんでいるのさ。楽しければいいんだよ。なんだってね」
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