2023-12-20季節風の子ら

 十二月二十日


 強風が吹き降りてきて倒れそうになった。山中は妙に風が強いというのは前から感じていたことだ。

 

 フィ姉さんによると、これは冬の寒い時期だけに来る季節風なのだそうだ。冬は海の方が温かくなりやすいため海の空気が上昇して、開いた隙間に山から冷たい空気が流れ込むことになる。


「この風には伝承があってね」


 フィ姉さんが話し始める。


「昔は、山の神と海の神っていうのがいると信じられていたんだ。大体はどちらも女の神様だって言われているかな。女同士の喧嘩って怖いからね。季節の風もその喧嘩の一端ってわけ。風を介して攻撃しているんだね」


「ほかには、また関係がないけど、冬の季節風を浴びているから強い男になる、とはよく言われるかな。数百年前の詩人が歌ったのが始まりで、それから流行ったんだ」


 それからフィ姉さんは歌い始めた。多分本来は雄々しい歌なのだが、妙に声が高いせいで日本のアイドル曲のようだ。


 左の頬を北風が

 撫でるならば右頬も

 鞭打つ風に吹きさらし

 ああ北風の男らの

 山が鍛えたたくましさ


「原文を覚えているのって私だけかな。私って長く生きているのだけが取り柄だから」


 十二月二十一日追記:酒場の吟遊詩人がこの曲を知っていた。歌詞は同じでも、リズムも音程もまるで違う曲だった。多分、フィ姉さんが覚え間違えているのだと思う。歌って、歌わないとどんな歌か分からなくなるから。

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